[携帯モード] [URL送信]

羽那陀(禮晶)完
拾捌
應は茫然と浜に立ち尽くしていた。
とうとう、何も出来ずに一人逝かせてしまった。
旅は道ずれ世は情けだと言って共に過ごしたのはたったの十数日間だが、もはや他人ではない。
本人に気にするなと言われても、やはり辛かった。
悔恨と自責の念に苛まれていた應は不意に誰かに声をかけられて心臓が止まるかと思うほど驚いた。
『さすが私の子孫の一人。人間的に出来ている。』
「え?だ、誰……って言うか何?」
突っ込み所が多すぎて何から突っ込めば良いのか。
話しかけて来た人物を探したが離れた場所にいる国主達以外の人影は無い。だが彼らではない筈だ。
何故か当の国主達は恐怖の表情で應を見ている。
『上だ、お前の頭上。』
「は?」
應はぎょっとした。頭上に幽霊っぽいのがいる!
道理で国主達の表情が恐怖に満ちている訳だ。納得。
『始祖をつかまえて幽霊はないだろう。』
「シソ?葉っぱが薬味になるやつですか?」
『………。』
沈黙してしまった幽霊もどき(?)の瞳の色が薄い藍色な事に應は気付いた。余り認めたくはないがもしかしなくても彼(?)の正体って…
「父方の御先祖様?」
皇子が神仙になり桓ノ国の守護神となった伝説は幼い頃に何度も聞かされて育った。
曾祖父などは実際に逢ったらしい。本当かどうかは知らないが。
「縹…元皇子…ですか?」
『何だ、よく知っているじゃないか。』
「すみません、でも皇族って好きじゃないんで。」
大嫌いだ、とは流石に失礼なので言わなかったが御先祖様には何となく伝わったらしい。
『別に大嫌いで良いぞ。私自身そうだったしな。』
「…………。」
御先祖様は妖魔の通力が残留してしまっている娘、要するに羽那陀に関する事を應に教えてくれた。
そして、静かに問うた。
『お前は、あの娘を助けたいか?』
「……!」
應の中に微かな希望が芽生えた。もしかしたら……
「はい。」
すると御先祖様は微かに表情を和らげた。
『私としてもあの娘に水に還られては面倒臭いし子孫の願いを聞いてやるのも仕事だからな。』
『…そう言うと思って娘の魂は拾って来たぞ。』
『流石は水蛇。仕事が早い。』
「………。ど、どちら様ですか?」
應は恐る恐る訊ねてみた。二人も神仙に逢うとは自分は非常に運が良いのか、はたまた悪いのか。
どちらでもないのだろう、多分。そう思いたい。
『彼は水蛇という。私の補佐官だ。』
『何故お前が紹介する。それに腐れ縁で十分だ。』
「………。」
應の中で神仙のイメージがガラガラと音を立てて崩れて行く。
こ、こんなに人間臭いものだったのか?
無造作に水蛇は縹に『魂』を渡した。
『後、お前も早くとんずらこいた方が良いぞ?』
「え?」
『この国に来る前に桓ノ国でお前の叔父に情報を色々と吹き込んでやったら開戦に踏み切った。早くしないとお前も巻き込まれるぞ。』
元皇族なのに、全然らしくない御先祖様だなどと應はぼんやりと思った。自分も似た様なものだが。
だが今、聞き捨てならない事を言っていた。
鉢合わせしたら口封じに、何て事も十分あり得る。
それだけは御免被りたかった。だが………


[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!