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羽那陀(禮晶)完
拾漆
次第に色が消えて淡くなっていった自分の身体。
それは一体何を意味するものであったのか…薄明るい水の中で、羽那陀はぼんやりと悟った。
(……水へ還って行くんだ)
どうしてそうなったのかはよく分からないのだが、まぁ九割方、故郷で贄にされたのが発端だろう。
(私は魚人ではないのだがな…)
いや、人魚だったか?最期は泡になってしまう話。
故郷での時と同じ様に羽那陀は自分でも驚く程、死に対しての恐怖云々の感情は抱いていなかった。
何処か諦めにも似た感情と気だるさだけが全身を静かに、ゆっくりと包み込んで行く。
(故郷で、畳の上で逝くとばかり思っていたが、まさかな…)
寄りによって異国の、それも海の中で逝くとは。
まぁ畳の上はともかく生き物は海中で生まれたと聞いたから、解釈の仕方では故郷とも言えるが。
脳裏を走馬灯の様に記憶が閃き、通り過ぎて行く。
(應……)
どうか、生き延びて欲しい。自分の分まで。
何でまた唐突に應の事を思い出したのだろうかと羽那陀はぼんやりと考えた。あぁ、そうだ…
(生きたい、生きていたかったから、か。)
自分自身でさえも殆ど気づいていなかった感情だ。もしかしたら気づきたくなかったのかもしれない。
気付かない様な心の奥底で自分は願っていたのだ。
應に出会う前からずっと、故郷で贄にされた時から、ずっと。
……死にたくない、生きていたい……と。
だから知らぬ内に感情を凍結させていたのだろう。
そうすれば、少なくとも恐怖や悲しみという思いを抱かないでいられるだろうから……
(偉い皮肉だな。死を目前にして気付くとは)
幽霊にでもなれないものかと羽那陀が思った時、閉じた瞼の裏で突然、光が弾けた。
瞼の裏で金に黒に焼け付く様に煌めく強烈な光。
(…………!?)
誰かに腕を掴まれた様な気がしたが、そこまでで羽那陀の意識はぷつりと途絶えてしまった。


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あきゅろす。
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