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羽那陀(禮晶)完
拾伍
一方、人界。
羽那陀は闇の中で薄く目を開けた。
此処…岩屋…に軟禁されて三日、否、四日か。
何だか急展開すぎて余り実感が湧いてないのだがどう解釈しても良い状況にはならないだろう。
水呼び鳥が多過ぎたか…今度は逆に雨が止まず、洪水が起こり国土は水浸しになってしまっていたのだ。
事態を重く見た国主は水の神に雨を止める様にと祈りを捧げる儀式を執り行う事にしたらしい。
それは良いが、羽那陀を人柱にしたいと言うのだ。
應は抗議したが、相手は腐っても国の主。それに侍女一人の生命と洪水が止む事を天秤に掛ければどちらに傾くかなど見るまでもなかった。
そんな訳で羽那陀はまた生け贄に選ばれてしまい、潔斎の為に岩屋に連れて来られたのだ。
生け贄は水神に捧げる為、海に沈めると言う。
それを聞いた時、羽那陀は思わず笑ってしまった。
二度も生け贄にされるとは、自分は余程生け贄に縁があるらしい。あって欲しくはなかったが。
應と出会って以来、今の己は第二の人生を歩んでいるのだと思う様にして来ていた羽那陀である。
どうせ一度、故郷の河で死んでいる身なのだから今更どうなろうが知った事ではない。
……ずっと、そう思っていた筈だった。
なのに何故だろう、何処か心の隅で生きたいと願っている己がいる事に羽那陀は気付いていた。
「應の影響、かな」
自分の人生は自分の物、理不尽な定めなど絶対に認めるものかと言っていた應。
無鉄砲に思えたが彼と一緒にいて少なからず楽しかったのは事実だ。
今、彼は何処で何をしているのだろうか。
国主に下手に抗議して妙な事になっていなければ良いが…と思った時、上の方から変な物音がした。
「羽那陀!無事か?」
いかにも小説や芝居とかにありそうな展開だとか思ってしまった羽那陀である。
まぁ、囚われの身のヒロインなどを気取るつもりは毛頭無いのだが。
それに助けに来る勇者だか英雄だかが應。
…ちょっと遠慮したいかもとか失礼な事を考えてしまう羽那陀であった。何か苦労しそう。



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あきゅろす。
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