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羽那陀(禮晶)完
拾参
その二日後、天を黒雲が覆った。
盥どころか酒樽を引っくり返した様な大雨となり人々は歓声を上げ、水の神に感謝の祈りを捧げた。
羽那陀の『予言』が見事的中した事により国主は本当に彼女を霊験あらたかな娘だと思ったらしい。
素直と言うか、単純と言うべきか。
お陰で應の監視は緩くなったが、反対に羽那陀は色々と煩く付き纏われる羽目に陥っていた。
「よく耐えられるなぁ、お前。」
應は同情と謝罪の意を込めてそう言った。
「お前も白い鬘被って少しは交代しろ…」
「ごめん、無理。」
あれは拷問の域に入っていると愚痴を零す彼女に苦笑いをしつつも應はきっぱりと即答した。
「羽那陀?また悩んでいるのか?」
日ごとに色の薄くなって行く己の身体に羽那陀は何か不安を孕んだものを感じているらしい。
気にするなと言っても気になるものは仕方無く、この件について應は言及しない事にしていた。
ただ一言、
「悩んでいる羽那陀って何からしくないぞ。」
「………うるさい、お前にだけは言われたくない。」
窓の簾を下ろそうとした羽那陀の髪がほんの一瞬、吹き込んで来た風にさらわれて横へと流れた。
「…!」
應はその時盲点の実験をしていた訳ではない。
人間の目は見えてなくともイメージで像を結ぶと言われているがそんな代物ではなかった。
羽那陀の髪がまるで幽霊か何かの様に透けて見え、流れた彼女の髪で見えない筈の部分が見えたのだ。呆然と固まっている應を見て羽那陀が問うた。
「應?どうかしたのか?」
「いや、何でもない。」
「なら良いんだが。」

言わないでおこう。
羽那陀はきっと酷く気にするだろうから。


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