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羽那陀(禮晶)完
拾弐
「羽那陀、大丈夫なのかあんな事を言って…」
あんな断言をしてもし雨が降らなかったらかなり彼女の立場は危うくなると言うのに。
「降ったら国主は私を畏れ、お前がとんずらこく好機も増えるかもしれないだろうが。」
「それは降ったらの話だ。」
気持ちは嬉しいがそれでは羽那陀が危うくなる。
それでは、寝覚めが悪いではないか。
「私は確証の無い事は言わない性分だぞ?」
應は彼女が見せた意味深長な笑みを思い出した。
そんな彼に羽那陀は庭にある池を示した。
逆光でよく見えないが、小さな鳥が沢山いる。
「見ろ、水呼び鳥が来ている。」
「水呼び鳥?」
「あの鳥は雨雲を背にして飛ぶという習性がある。数が多ければ多い程、背にする雲も大きいから多分三日と待たず大雨になるだろう」
感心する應の傍らで羽那陀はぽつりと呟いた。
「私が生け贄にされたあの日も水呼び鳥が岸辺に沢山群がっていたよ…」
去年の今頃なら毎日田に生える雑草と格闘して、夏祭りで滅多に食べられないご馳走を皆で食べていた。
…もう、二度と戻れない『当たり前の日々』は、失ってはじめて寂しく思うものであった。
偶然にも應と出会ってそれなりに楽しいからこそ余計に寂しく思っているのかもしれない。
「何を感傷に浸っているんだ、似合わないかさっさといつもの羽那陀に戻って来いって」
應がにやにやと笑いながら此方を見ていた。
余程そんな表情をしていたのだろうか。
しかし、似合わないとそこまで断言されるとは…
今更過ぎる気がしたが敢えて羽那陀は聞いてみた。
「お前は私を一体どう見ているんだ?」
「え?冷静沈着な毒舌家。」

まぁ、悪くはないだろう。
毒舌は引っ込めておいてやる事にした。


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あきゅろす。
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