蛟竜(禮晶)完 漆 是非お礼を、という事で竜の住まいへ案内された。粗末な家にはもう一人の人物がいた。 「殿下。その者は?」 「コウと申す。私の生命の恩人だ。」 声からして三十路を越えた位の男が名乗った。 「竜殿下の護衛を務める条(ジョウ)と申す。」 「コウと言います。殿下、とは」 「私は現帝の第一皇子、竜だ。」 「………。」 余程冗談が好きなのだろうか。不敬罪で打ち首にされても文句は言えない様な名乗りである。 まぁ、確かに竜はただの平民の少年でなさそうだった。 そう言えば大分昔、第一皇子が宮から失踪したなんて噂もあった。 帝位を狙う叔父の暗殺の魔手を逃れる為、市井に降りて身を隠した…らしい。あくまでも噂だろうが、あながち嘘ではないのかもしれない。 ……まさかとは思うのだが。 「驚かないのか?」 「大変申し訳ないが私は皇族云々に払う敬意は余り持ち合わせていないものでな。」 率直に答えると条は怒った様だが竜は苦笑した。懐が広い、というか変わった皇子様である。 「疑ったりもしないのか?」 「さっきの男達、相当な剣の使い手だったからな。単なる盗賊やそこらの役人とは考えにくいし、 そんな奴らに生命を狙われているのにただの平民などとは考えにくいと思ったまでだ。」 なるほど、と竜は呟くと急に真顔になった。 「ところでコウ。………少し、話がある。」 「…味方になれと?」 「駄目か?」 宮中へと返り咲く手伝いという事らしい。 しても良いのだが、コウにはそんな義理も無い。 断ろうかと思ったが不意に縹の事を思い出した。 彼の本当の名前は、珠(シュ)。 数百年前のこの桓ノ国の第一皇子だったらしい。 本来なら帝位を継ぐ筈の身であったがその瞳の特異な色故に翔鳳峰に捨てられたのだという。 都に行けという縹の言葉は目的が分からないし、ここも郊外とは言えども一応都の範囲内なので仮に言い訳する羽目になっても通用するだろう。 そんな風に考えたコウは首を縦に振った。 「分かった。協力はするが衣食住は保障しろ。」 「勿論だ。」 条は少し警戒し何か言っていたが竜は譲らない。 結局、条が折れてコウは協力者となった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |