蛟竜(禮晶)完 肆 コウは翔鳳峰の険しい山道を下っていた。 その足運びには迷いが無く、盲目だとは思えない。 縹と名乗る『青年』とこの峰にきて七年が経ち、盲目で無学だった少女……コウは彼に教え込まれ人並み以上に学問、更に武芸も出来る。 更には神仙の、水蛇様の御子としてそれ相応の術が使えるまでにもなっていた。 そして今朝、朝餉の席で縹にこう言われたのだ。 『面白くなりそうだから都へ行け。』 何がどう面白くなるかさっぱり分からないのでコウは説明を求めたが気まぐれの塊の様な師が説明してくれる筈もなく、取り敢えず出発した。 どう考えてみても師の気まぐれな様な気がしてコウは溜め息をついた。多分、生涯最長記録だ。 もう師の気まぐれには振り回されまいと元旦に決心して、…志は一ヶ月たらずで脆くも崩れた。 『とりあえずひたすら西に進めば都だから』 師からの言葉はたったそれだけ。 盲目のコウの一人旅では少々心許無いが、構う事無く縹は何処かへと出掛けてしまった。 まぁ、人に道を聞いて行けば辿り着けるだろう…とあくまでも楽観的に考える事にしたコウである。 万一人攫いにあっても武芸も出来るし、盲目では売り物にならないからそもそも狙われまい。 そう結論を下したコウは山道を急いだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |