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蛟竜(禮晶)完
弐拾
「私の事を、恨んでいるか?」
初めて娘にかける言葉として微妙な物だったが水蛇は開口一番、真剣な眼差しで尋ねた。
……此処は宮廷内にある閑静な離宮である。
あの後、神剣の儀は大混乱の内によく分からないまま終わってしまったのだ。
廉や条は連行された。天帝陛下に下卑た輩などと呼ばれた廉の権力は地に落ちて、今までの不正や謀略などを告発する者が爆発的に増えた。
中には正妃を謀殺したという動かしようのない証拠も持っていた者もおり、即刻彼は処刑された。
葉は島流し、条には賜薬が下された…毒殺刑である。
条は市中引き回しの上打ち首獄門の筈だったが、竜のとりなしで軽くなった。
死ぬ事は変わらぬがせめて不名誉な刑よりは……という事らしい。
条本人は覚悟していたらしく、淡々と刑を受け入れて毒薬を一気に飲んだと聞く。
彼の最期の言葉………かたじけない………はきっと誰かに届いただろう。
結局の所、彼は仕えた主が悪かっただけ。
コウは心の中でそっと手を合わせた。転生したら次こそは良い主に恵まれて欲しいと思う。

……それはともかく、今や彼女は皇族かそれ以上の待遇を受けていた。
縹がコウの事を水蛇の娘であり自分の養い子と竜や帝、文武百官達の前で公言したお陰…である。
まず、衣食住全てが有り得ない程豪華だった。総額はと聞けば世にも恐ろしい返事が返ってきそうで、コウはとうとうその答えを聞けなかった。
しかも自分ですら全く知らなかったのに、周りの皆からは(天帝陛下の)姫君様などと呼ばれているのだ。
……どうも実父より養父たる縹が目立っているのは水蛇にとっては想定内だが微妙な弊害だ。
「恨む?一体何をですか。」
縹に預けて会いにも来なかった事を、らしい。
「私のしていた事は育児放棄の様な物だからな。許されて良い様な代物でもあるまい?」
「いいえ。」
「いいえ?」
コウは幼い頃にその事について縹に尋ねたのだ。すると彼は苦笑いの様な表情で教えてくれた。
水蛇を、父を恨むんじゃないぞ、と言いながら。
『水蛇の奴は凄まじく猛反対していたのだがな、私がごり押ししてお前を引き取らせて貰ったんだ』
時が来るまで絶対会いに来るなと言ったのも私だからあいつに他意は無いのだ、と彼は笑いながら言っていた。
つまり、そういう事なのである。
縹と水蛇の友情の間にヒビが入らなかったのか若干心配な所だが平気そうだったでなによりだ。
そう水蛇に話すと彼は少し驚いた後、微苦笑した。
「コウ、お前は二つの宿業を持っている。」
不意に水蛇が真剣な声でそう言った。



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あきゅろす。
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