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蛟竜(禮晶)完
拾参
予想通りと言うか、やはり嫌がらせが来た。
風呂が水風呂、廊下に鼠の屍骸…普通すぎる。
「もう少し種類が無いのか?嫌がらせの。」
夕食を食べながら竜がそんな事を言ってきた。
「あっても困る。後始末をする私と条殿の身も少しは考えて欲しいというものだ。」
「それもそうか。」
竜の給仕をしていた女官が鍋の蓋を開けた途端、悲鳴をあげて鍋から後ずさった。
中から結構長い蛇が這い出して来たのである。
竜は慌てず短剣を抜くとその頭部に突き立てた。
「青大将か。マムシの方が短いが効果はある」
食べても臭みとアクがあり、不味いなどと言う。
「蛇を食べた皇子様というのも珍しいかもな。」
「まぁな」
条が短刀を抜いて蛇を窓から捨てようとすると、それを見ていた竜が条に制止の声をかけた。
「殿下?」
「まぁ、ちょっとした余興だ。」
無造作に蛇の尻尾を掴んで振り回し始めた。
蛇を振り回す皇子の図、というのも結構珍しい。
「ん……、あそこか?」
綺麗な放物線を描いて蛇は飛び、笹藪に落ちると悲鳴が上がり、がさがさと誰かが逃げる音がした。
誰ぞの女官が成果を見ようと潜んでいたらしい。月明かりで見えた女の顔には見覚えがあった。
「あの女官は……廉叔父の所のだったな。」
「どちらかだろうとは思ったよ。」
「と言うか他に心当たりもいないしな」
月光に照らされてコウの白銀の髪が煌めく。
こうして見れば本当に美しい少女なのだが…、と竜は妙にしみじみとした実感を込めて思った。
盲目なのに武芸にも長け学問にも秀でた彼女はたまに竜よりも言動が男らしかったりする。
そんなコウを一発で少女と認識出来るだろうか、否、ない。不可能すぎる。
「コウ。」
「何だ?」
「いや……こんなに協力してくれて、ありがとう。」
「協力すると私は確かに言ったからな。」
本音を言うなら事の結末が見たいだけなのだが。
「それに、礼は現物支給で頼む。」
コウの言葉に竜は吹き出した。……彼女らしい。
「後、お礼を言うなら条殿にも言えよ。」
そうか、と言って竜は条にも礼を言った。
条は微かに笑った。
竜は滅多に見られない貴重品だと言って喜んだ。

彼曰く、この世の果ての虹色の滝より珍しい、と。



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