風の音(禮晶)完 玖 翔鳳峰は、桓ノ国の東端にある霊峰である。 天帝陛下の峰だという伝説さえあり、皇族以外の人間は入れない場所とされていた。 「まぁ私達は人ではないから入り放題だが、な」 三人が到着した時には既にコウの父親、水蛇と火結の父親…那岐、科戸と縹が待っていた。 「思ったより早かったな。」 「父上、何事ですか。」 コウが尋ねると水蛇は眉間の皺を深くした。かなりの大事が起こったらしい。 「今から縹が話すが…全く、何で今更…」 首を傾げる三人に縹が言う。 「三人で当時を知っているのは…誰もいないのか。じゃぁ、取り敢えず背景から話すが……」 縹が話す内容を聞いた三人は顔色を変えた。 それは、神仙の世界の歴史の中でも一、二を争う大惨事に関わって来ている事だったのである。 「どうしますか?」 「取り敢えず捜索だ。恐らく、今は人間だろう。」 「人間…」 縹の言葉に火結は先刻の出来事を思い出した。 聖の死が悲しくて、忘れかけていたが、まさか… 「まさか……」 火結の話す内容に皆は顔を見合わせた。 「そいつ、俺を父上の息子かと聞いて来たんです。ただの人間なら知っている筈もないのに…」 那岐と火結は桓ノ国の神ではない。にも関わらずその少年がそう問うたと言うならば。 「だが、まだ断定は出来無いぞ?聖帝の曾孫から聞いていたという可能性も否めない。」 科戸の意見に縹は頷いた。 「本人に来て貰った方が早そうだな。」 「しかし彼は皇族ではないのでは?」 私の子孫として呼びましょうか、という羽那陀にその必要は無いと縹は首を振った。 「こういう時こその権力と血筋万歳だからな。」 薄い藍色の…縹(ヒョウ)色の目をすっと細める。 「久し振りに珠と名乗る事が出来そうだ。」 彼の本当の名前は、珠。 桓ノ国と皇族の守護者になったと言う、薄藍色の瞳をした皇子である。 「それにこの峰は俺のものだしな。」 天帝陛下は楽しそうだ。 ……峰が可哀想、と水蛇が思ったのは内緒の話。 [*前へ][次へ#] [戻る] |