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風の音(禮晶)完

人界、桓(カン)ノ国。
今日は祖先神を祭る日である。
この日の為に用意したご馳走を皆で食べ、飲み、歌って踊って過ごすお祭り騒ぎな一日なのだ。
宮中も例外ではなく、盛大な宴が開かれている。そんな中、華やかな音楽や人々の笑い合う声にも背を向けて少年は一人、石碑の前に佇んでいた。
……先々代の帝の偉業を讃えた碑文。
「曾じい様…」
この少年、名を鷹(ヨウ)という。歳は十三。
当代の帝の嗣子…要するに、皇太子である。
だが、彼は自らのその地位が好きではなかった。地位だけではない。金も権力も、……自分自身も。
勿論そんな愚痴を皆の前で零せる筈も無い。
唯一彼の曾祖父…在位中は賢帝の誉れ高く、退位後は国の東にある翔鳳峰という場所で隠居していた聖(ショウ)にだけ、そんな風に話す事が出来た。
…覚えている。聖が苦笑しながら言っていた事。
自分もかつてはそうだった、と。
そして、彼が少年であった頃にこの峰で体験した不思議な話を聞かせてくれるのだった。
少年の姿をした火の神と出会って、共に過ごした数日間での出来事を。
『その火の神様の御名前は?』
曾祖父は遠くを見る様な目をして答えた。
懐かしさと、そして寂しさとを滲ませた声で。
いつかまた会おう、そう言ったけれど、もう何十年も経った今ですら…会う事は叶わなかった。
………火結(カケツ)、と。


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あきゅろす。
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