[携帯モード] [URL送信]

風の音(禮晶)完
弐拾
「父上達も、年甲斐の無い…」
「男は幾つになっても子供の心を忘れないとか言いますから仕方無いんですよ、きっと。」
「羽那陀、それとはちょっと違う気がするぞ…」
先程までの戦いの疲れの反動もあるのだろうが、騒いでいる父親達を見てコウや火結が言う。
「曾じい様…」
何かがボロボロと崩れて行くカミサマ達を見て遠い目をしていた鷹の隣に銀は腰を下ろした。
「俺から見たお前だって十分あれだったぞ。」
鷹みたいな皇族ばかりでも若干困る気はするが、それでも居ないと更に困る様な気がする。
地位も金も権力も、自身も嫌いだと言っていた鷹。
だが嫌いだからこそ出来る事もあると思う。
「所詮は地位も金も権力も何かの道具なんだし。全部使う奴次第だと思うぞ、俺は」
曾祖父も同じ事を言っていた。
使い方を誤らねば何でも出来る素晴らしい道具なのだと。
「まぁ馬鹿には刃物持たすな、とも言うがな」
「……私はその馬鹿かもしれないのだぞ。」
言っている事は分かる。だが出来るのとは違う。
自分が曾祖父の様になれるかと言えば正直な所、全く自信が無かった。
「安心しろ。俺が会った頃の聖だって大丈夫かと
 心配になる位の天然ボケなお子様だったぞ」
二人の会話を聞いていた火結が懐かしげに言う。
「茸採らせたら毒茸標本でも作るのかって位に毒茸だけ採って来るし、あたって寝込むし…」
流石は曾祖父と曾孫。
脳の思考回路が変な部分で似通っているらしい。
「それにもし暴君とかに成り下がったら俺達がお前を始末してやるから安心しろ。
 そういう役目も担っているんだ、俺達風の民は。」
刺殺と絞殺と毒殺の三つのどれが良いか、などと事も無げに言う銀にとうとう銀は笑い出した。
「…分かったよ、殺されるのは御免だから何とかやってみる。まぁまだ当分先の話だし。」
そうだな、と銀は呟いた。
「後…自分が嫌いって悲しくなるから止めとけ。」
銀、今回の教訓である。
「善処する。お前もな」
「俺はもう良い。まんざらじゃないと思うよ。」
銀はまだ騒いでいる縹や科戸を見ながら言った。
「こんな事言ったら怒られそうだけど、俺はあの風矢って神様は別にそんな悪い奴でも無かった気がするよ。
 ……あの人、運は無茶苦茶悪かったと思うが。」
自分が闇に引きずられそうになるのを毎回彼が阻止していたと聞いた時には思わず呆れた。
……ただの親切な良い人ではないか。
そんなんでよく天上世界が真っ二つになる様な大惨事の張本人になれたな、と感心してしまう。
「運が悪かったんだろうな…死にたくなる位に」
自己弁護だとか言うなよ、と言う銀に鷹は頷いた。
「お前とは全くの別人だろう?」
銀と風矢では威厳に差がありすぎる。
そう鷹が言うと銀は嬉しそうな、不本意そうな…かなり複雑そうな表情でそうだな、と言った。
「でも良いなぁ銀は。これから神仙修行だろ?」
自分などよりよっぽど楽しそうではないか。
「いや…滝に打たれるとか食事が霞だけとかはちょっと嫌だな。
あ、でも学問とかだったら風矢にやって貰えるか。楽しよう」
仮にも(元)神様を呼び捨てで良いのか?と鷹が聞こうとしたその時、
「馬鹿言うな。誰が出て来るか」
どうやらしっかりと聞こえていたらしい。
ちっ、と銀は舌打ちした。かなり本気だった様だ。
「…まぁ、さっきのは冗談だとしておいて、俺は何とか頑張ってみるよ。だからお前も」
俺が暗殺したくならない位には頑張れ…
「あぁ。」
ふん、と何処かで誰かが鼻を鳴らした。呆れた様な、だが穏やかな表情で。
「銀。……笛を吹いてくれるか?」
「あぁ。」
鷹から横笛を受け取った銀は静かに吹き始めた。
明るさの中にも何処か暗いものが混じっていた今までの音律とは違う、明るく澄んだ音色だ。
「そう言えば風矢も笛の名手だったな。」
ぽつりと縹が呟いた。
「そうだな。だがやっぱり違う」
科戸の表情は陰になっていて窺う事は出来ない。だが、何処か嬉しそうだと縹は思った。


[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!