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風の音(禮晶)完
拾捌
「おい半端者!」
「んだとお貴族様!」
不意に黙りこくっていた風矢が叫んだ。すかさず怨霊を斬り伏せながら縹が返す。
「うわ、懐かしいな……」
那岐の今度こそまともな感想に水蛇や科戸達は安堵した。これ以上脱力させられたら戦えない。
「私を斬れ!」
「お前の脳味噌は茶碗蒸しか!鬆が入りすぎ!」
銀の身体を斬る訳にはいかない。
だが風矢は更に怒鳴り返した。
「馬鹿者が。私と銀とを分けろ、太白剣で!」
太白剣……強大な力を秘めた宝剣の名前である。但し、力が強すぎて天帝にしか扱えない。
「太白剣なら可能かもしれんな……縹、お前は早」
早く取って来い、と言いかけて水蛇は沈黙した。
その太白剣が縹の腰に差さっていたのだ。
埃まみれなあのボロ…古色蒼然とした剣である。
「お前っ、今までの私達の苦労は…っ!」
太白剣があれば怨霊なんぞ一気に片が付くのだ。那岐達の視線も冷たい。
科戸はどさくさに紛れて急所ばかりを狙って匕首を投げつけていた。
「そのつもりだったんだけど…」
「何だ!申し開きがあるなら言ってみろ!」
水蛇の剣幕の方が怨霊よりもずっと怖い、などと縹は思った。何だか怨霊が可愛らしく見える。
「太白剣、錆びてて抜けないんだよ…」

沈黙。

「このっ、馬鹿天帝が……っ!」
水蛇は魂の底から怒鳴った。不動明王も仁王様も裸足で逃げ出しかねない憤怒の形相である。
「父上…血圧あがりますよ。歳なんですし…」
「その前に胃潰瘍では?」
これはコウと羽那陀だ。心配しているのか否か…
「あれ、父上?何で目を塞ぐんですか?」
那岐が火結の目を両手で塞ぎながら言う。
「見ちゃいけません火結。馬鹿が伝染るから」
「ここまで阿呆だったとは…」
科戸はもはや諦めきった様な顔をしている。
「御先祖様…」
鷹は曾祖父の墓前で何て言おうか真剣に迷った。ありのままを伝えて良いものなのだろうか?
「……流石だな。此方の予想もつかぬ事をする」
これは風矢だ。だが皮肉を言っているその表情も心なしか引き攣っている。
「えぇい、仕方が無い!」
縹は腰帯から太白剣を鞘ごと引き抜いた。
そのまま剣を大上段に振り上げる。
「何だ、西瓜割りでもするのか?」
「…何で分かったの……?」
何故に西瓜割り、と縹と風矢以外の皆は胸の中で突っ込みを入れた。幹竹割り、とかではなく。
「……何故だろう、心なしか潮の香が…」
山の中なのに。水蛇もほとほと参って来ていた。
「頼むぞ、太白剣!」
絶対に何かが起きる。吉凶どちらかはともかくとして、絶対何かが起きる。
頼むから吉と出てくれ…
全員(特に水蛇)の切実な願いに応えるかの様に、太白剣が真っ白い光を放った。


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