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風の音(禮晶)完
拾伍
「地震?火山噴火?」
思わず口走った鷹に縹が答える。
「まさしく火山活動っぽいな…」
「え、」
先刻の様な血臭はまだしていない。だが、鷹でも確信出来る程に禍々しい気配は酷似している。
その時、霊廟の扉が乱暴に蹴り開けられた。
扉の前に肩で息をしながら立っていたのは……

「銀!」

駆け寄ろうとした鷹の襟首を科戸が掴んだ。
「お前……っ!」
懐から掌に収まる位の大きさの匕首を取り出す。
「何だか人質取った立てこもり犯に見えるな……」
ぼそっと呟かれた那岐の感想に脱力する一同。
「な、那岐…」
「全く…相変わらずな御方だ。」
鷹は瞠目した。いつぞやの晩の、
「正体不明の不審な男声?」
更に脱力する一同。
「鷹…」
銀が、…否、銀の中にいるモノが唇を歪めた。
「流石はお前の子孫だな、《半端者》」
負けじと縹も言う。
「いい味出しているだろう?何しに来た」
……風矢、と。




しばらく、双方は睨みあったまま動かなかった。その間にも禍々しい気配は近づいて来る。
「何しに来た」
縹はもう一度繰り返した。
「何も。ただ、こいつが奴らの手に落ちるのを阻止する為に来ただけだ。」
こいつ、と風矢が銀の身体を指し示しながら言う。
「そりゃ御苦労さん。…とっとと銀に身体返せ」
「無理だ。こいつが出て来たがっていない」
「お前の言葉なぞ信用出来るか!」
科戸が怒鳴った。従兄に向けて突き付けた刃は遠目にも分かる程小刻みに震えている。
風矢は従兄弟を一瞥してから縹に向き直った。
「私は言ったぞ。此方側へは来るな…と」
灰色がかった銀の瞳がふっと暗い色を帯びた。
いつも異形だ、化け物だと忌み嫌われて。
そうした言葉を浴びせられて銀の心は少しずつ凍えて行き、次第に何も感じなくなって来ていた。
そんな様子を知った事かと眺めつつも、完全には心が闇に喰われない様に風矢は見張っていた。
銀の『裏側』から…闇の側面から。
「取り敢えず奴らを何とかしろ。増大しすぎだ。」
「お前のせいだろ!」
既に霊廟の外で結集している様子が窺える。
しばらく霊廟の奥でごそごそとやっていた縹はボロい…古色蒼然とした剣を取り出して来た。
「くそっ、埃吸いすぎた」
鷹を見て何やらじっと考え込む縹。
「あの…私の顔に何か?」
「あぁ、感覚器その他諸々…じゃなくてだな」
既に水蛇や那岐達も各々武器を構えている。
「お前が一番戦闘力無い上に丸腰なんだよな…。俺達の剣振りまわせる腕力も無さそうだし。」
帰ったら絶対筋肉質になってやると鷹は思った。
「コウか羽那陀、何か貸してやってくれない?」
それなら、と羽那陀が自分の細身の剣を貸す。
「これ位なら扱えるよな?」
「当たり前です!」
ちょっと心配そうに言われてしまった。
「あ、でもこれ貸して頂いたら」
「心配するな。私は素手の方が得意なんだ。」
「そうですか……」

女は強し。
にやりと不敵に笑う羽那陀の中に女性の強さを垣間見た様な気がする鷹であった…


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