風の音(禮晶)完 拾壱 「もう良いぞ。」 火結の声が聞こえて鷹は後ろを見た。 何だか不機嫌そうな表情の銀が立っている。 「何でお前の影なんだよ。」 「それが一番手っ取り早かったんだ。」 更にその後ろに火結が腕組みをして立っていた。 「よく来たな、俺の子孫。それと…」 「…私の子孫。」 唐突に現れた縹と羽那陀に二人は驚いていたが、言われた言葉に更に驚いた。 「初めまして…でもないか。何か掛け軸で結構流布しちゃっているみたいだからな。」 珠、今の名前は縹だがな、と名乗る。 「私が羽那陀だ。知っているとは思うがお前の、そして風の民の始祖という事になっている。」 短い銀色の髪、そして完全に男物の服装のせいでどうも女性には見えない。むしろ青年だ、どう見ても。 「掛け軸って、あれか。無駄に綺羅綺羅しい奴」 頭からすっぽりと濃灰色の外套を被った神仙…傍目から見れば不審者―がぼそりと呟いた。 「科戸!無駄には余計だろう!」 「何処がだ?」 科戸と呼ばれた濃灰色の不審者が言い切った。 「まぁ、科戸の方が美形だよね。」 「那岐…信じてたのに……」 火結によく似た神仙が追い打ちを掛けている。 「おい、二人が混乱しているだろうが。」 「ちゃんと名乗った方が良いのでは?」 最後に白銀の髪をした神仙が二人、現れた。容姿がよく似ているが、もしかして親子だろうか。 「そうだな、失礼した。俺の名は科戸」 風神で旅神だ、という実に簡潔な自己紹介。 外套の下の、驚く程に色素の薄い髪と瞳とに銀はその理由を察したらしいが、鷹が、 「……ハゲ隠しじゃないのか…」 小さな声で、でも確かにそう言っていた。 「那岐だ。火結の父、という説明で良いかな。」 火結に似た彼はどうやら父親だったらしい。 最後に白銀の髪の神仙二人が名乗る。 「私は水蛇だ。名の通り水神で、冥界にも関わる。此処にいるコウは私の娘だ。」 「コウって、あの…」 驚いている鷹にコウは頷いた。 「竜にもよく似ているな、流石は子孫。」 ちょっと嬉しそうな鷹に縹が言う。 「詳しい話は明日だ。今日はゆっくり休め。」 「はい。」 銀の後ろ姿に鋭い視線を注いでいた科戸はふと顔を上げた。どうだ、と縹が問う。 「分からん。だが…可能性は高いと思う。」 「……そうか。」 [*前へ][次へ#] [戻る] |