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妖(和麻)完
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雑木林での出来事の翌日、勇人は一人で些か疲れたように帰路を辿っていた。昨日は信じ難いことがあって、勇人の頭はパンクしそうだった。人間とは思えない者に遭って「まあ、こんなこともあるさ」と割り切れるほど勇人の頭は寛容ではない。重い足取りで歩くそんな勇人の前にひょっこりと電柱の陰から誰かが顔を出した。その顔を見た勇人の顔に驚きの色が広がる。
「お、お前は昨日の!」
「今日も煩いな。そんな大きな声を出してもいいのか。怪しまれるぞ」
昨日と同じ顔がすたすたと歩いて来る。「えっ」と勇人がきょろきょろと周りを見ると通りすがりの人の目が痛い。それもそのはず、妖怪は基本人の目に映らないのだから勇人が一人で大声を出しているように見えるのだ。勇人はそれに気づくと駆け足でその場から立ち去った。
「なんだ、お前人には見えないのかよ。おかげでまた恥ずかしい思いをしたぞ。どうしてくれるんだ」
勇人は小さな声で天花を睨む。天花は素知らぬ顔で勇人の横を歩く。人通りの少ない道に出た。
「なあ、お前は一体何者なんだ」
「妖怪っていえば分かる?」
「妖怪ぃ?」
うすうすそうは思っていたが本人の口から言われるとやはり信じられない。その気持ちが顔に出ていたのか勇人の顔を見た天花はむっと眉間にしわを寄せた。
「お前の名前は?」
不機嫌顔のまま尋ねられて勇人は一拍おいて「勇人」とだけ言った。
「ふうん。これから俺は勇人の周りをうろつくから宜しく」
急に宜しくと言われても宜しく出来ないのが普通で、案の定勇人は断固拒否した。天花は勇人が妖怪を見ることができることや、天花の攻撃をかわしたことから興味を持って、勇人の所へ来たと渋々説明した。勇人としてはたまったものではなかったが、長生きをする妖怪としてはただの暇つぶしにすぎなかった。
「何で俺が天花の暇つぶし相手にいならなくちゃいけないんだ」
「固いこと言うなよ。もしかしたら新しい自分に出会えるかもしれないし」
「ふざけるな」
 そんなくだらない話をしているうちに勇人の家に着いた。荘厳な大きい門の前に立って天花は唖然とした。
「勇人の家って寺だったのか」
「まあな。じいちゃんが坊さんなんだ」
すると向こうから勇人の祖父らしい老人が歩いてきた。袈裟を身にまとった優しそうな顔だった。
「勇人、帰っていたのか。……おや」
勇人の祖父は勇人の後ろの方を見ていた。
「どうしたの」
「いや、何でもない。さあ早く上がって宿題を終わらせなさい」
「わかっているって」
勇人はそう言ってそそくさと門をくぐった。それについていく天花、一瞬だが勇人の祖父と目が合った。天花はにやりと笑い、通り過ぎて行った。

「……お前のじいさんって霊感があるのか」
「そうかもしれないな。そしたら俺が天花を見ることができることにも頷ける」
「名前知っているか」
「確か、喜作じゃなかったっけ」
「……喜作ねえ」
天花は神妙な顔をして勇人の祖父の名を繰り返した。


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