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妖(和麻)完
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「そうか、やっとこの時が来たみたいだね」
落ち着いた物腰で喜作は言った。雷の件が終わり勇人は何故親を見たことがないのかがよく分かった。親なんているわけがないのだ。それなら何故喜作は勇人を養い、人間として扱ってくれたのかの勇人は尋ねた。
「お前はね、十年前に寺の門をたたいたんだよ。五歳ぐらいの容姿でね。話を聞いたら何も覚えていないというから、とりあえず寺に入れたのさ」
喜作はすぐにその少年が久遠だと分かった。喜作がまだ十分若かった頃、久遠と出会っていたのだ。それに霊感があり、妖怪も見えたためその時妖怪たちの間で何が起こっていたのかも知っていた。だから、事情を察した喜作は昔のよしみから久遠を引き取ることにした。
「何で世話してくれたの? 昔のよしみって言うだけじゃできないでしょ」
喜作は思い出すように上を見て笑った。何がおかしいのかと勇人が首をかしげる。
「久遠は強い力の割に精神年齢が低かったからね。私が世話をして勇人が妖怪に戻りたくなった時、ちゃんと自分の力を制御できるようにしておきたかったんだよ」
「……何か複雑な気持ちだ」
眉を軽く寄せる勇人。そして喜作はすっと真面目な顔をした。つられて勇人の背筋が伸びる。
「勇人、ここからは自分でどのように生きるか決めなさい。教えるべきことは教えたはずです」
勇人は考えるように息を吸い、目を閉じる。少し経ってからゆっくりと目を開けた。
「俺は勇人だ。ほかの何者でもない。久遠はもういない。俺はこのまま、ちょっと不思議な力を持った人間として生きるよ」
喜作は分かったと優しく言うとその場を去る。ところが途中で足を止めて振り向いて言った。
「天花君ですね。勇人がお世話になりました」
勇人の後ろにいた天花がビクッとする。
「無理に引き止めませんがよかったら勇人といてやってください」
それだけ言い歩き始めた。
(何で俺の名前知っているんだ?)
喜作が歩いて言った方向を見たまま納得のいかない顔で腕を組んだ。勇人が呼びかけたが反応がない。すると勇人はからかって天花の鼻をつまんだ。
「わっ! なにすんだよ」
不意打ちの鼻つまみはなかなか利いたらしく驚いていた。
「天花はどうすんの? じいちゃんはああ言っていたけれど気にしなくていいぞ」
「いや、俺はここに居候しようかな」
「ほんと! やった」
勇人は飛び上るように喜んだ。友達はいるとはいえ広い寺の中、喜作と勇人の二人だけでは話し相手が少なくて退屈していたからだ。
 その日以来寺の中がドタバタとにぎやかになったのは言うまでもない。


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