妖(和麻)完 ページ:11 「そうそう、勇人は妖狐の話してきいたことあるか?」 アハハと笑った後天花が次の話題として妖怪の間での噂を話してきた。勇人がないと答えると天花はわざとらしく声のトーンを低くして話し始めた。 昔、どんな妖怪よりも強い妖力を持っている九尾の妖狐がいた。名前を「久遠」と言った。久遠は自分の妖力とは裏腹に穏和な性格だった。そのため、滅多に力を出すことはなかった。しかし己の力を使わないでいる久遠をよく思わない輩はいくらでもいた。そして奴らは化け猫の「雷」を筆頭にあることを企てた。いっそのこと久遠を殺して力を奪ってしまおうと。 その計画は久遠だけではなく妖怪全体を巻き込んだ。久遠は他の妖怪に化けて隠れていが雷たちはなんと目についた妖怪を片っ端から殺していくという行為に出た。雷たちによって多くの妖怪が殺され、それに見兼ねてとうとう久遠は雷を止めに行った。結果、雷は深手を負い遠くへ逃げたが被害は多大なものだった。 久遠は人間に化けて自らの記憶を消し、力を封じた。久遠は妖怪ではなく力のない人間としての道へ逃げて人間として生活し始めたのだ。 それから幾年も経つが久遠は自分自身が妖怪だと知らずに生きているそうだ。 「……という噂というより伝説に近い話でした。ちゃんちゃん」 話し終えた天花は勇人が予想以上に真剣に聞き入っていたので恥ずかしくなった。 「久遠って嫌な奴?」 勇人が考え込んだ様子で聞いた。 「さあな。俺は何逃げてんだよって言いたいが、自分のせいでそんなことになったら逃げたくもなるわな」 「だよね」 勇人はどこか青ざめたように頷いた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |