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火結(禮晶)完


基本的に火結は身の回りにかなり無頓着だ。
彼の言う寝泊まりする所とは住居と言うより寝床であり、雨や風とお友達になれそうなボロい小屋である。
「此処で、生活しているのか?毎日?」
「嫌なら外で熊か狼の餌になっていろ。骨は拾ってやる。」
「すみません、失言でした…。」
「なら良いが」
何だかんだと言いつつも小屋に入り、火結は少年に捻挫の応急処置を施してやった。
此処に至ってようやっと火結の姿を見る事が出来た少年は彼の紅い瞳を見て驚いた表情をしたが、何も言わなかった。
「それは?」
「色々と使える痛み止めだ。原材料は…、いや、良い。」
急に語尾を濁らせた火結に少年は怪訝そうな顔をしたが、彼の持って来た薬を見て顔色を変えた。
「もしかして、その物質は塗り薬なのか?」
「そうだ。見た目はともかく効くぞ。」
皮膚への直接の付着は避けたくなる様な薄気味の悪い…微妙な色合いの薬だったが、効能だけは確かだった。
「凄いな、痛みがどんどん引いて行く。で、原料は?」
「………聞きたいか?」
「やっぱり止めときます…」
「そうか。」

腹の虫も鳴き始めたし夕餉にしようという事になったが、絢爛豪華な宮中で大勢の者達にかしずかれて育った少年は
目の前で煮炊きする様子を見た事が無かったらしい。
出来たての料理をその場で食べるのも初めてだったらしく、この皇族の少年にとっては非常に新鮮な体験になった様だ。
「宮中の食事よりもずっと美味しい。作りたてだからか?」
「かもな」
冗談で魚でも捌いてみるかと聞いたらやりたいと言うので火結は少年に小刀と川魚を一匹渡してやったのだが…その結果は惨憺たるものになった。
もはや魚の原型を全く留めていない肉片である。
「お前なぁ、これじゃ食べられないだろうが」
「………すまん。」
「別に良いさ。この魚には気の毒な事をしたがお前自身は魚が捌けなくても生活には困らないだろう?」
「そう、だな…。」
少年の表情に自己嫌悪の色が浮かんでいるのを見て取った火結は少し言い過ぎたかな、と心の中で反省した。
「まぁ、それも肉団子には出来るだろうから気にするな。」
「そうか?骨とかも混じっているのに平気なのか?」
「時間をかけて煮てしまえば大丈夫だろう。」
そうか、と少年は少しだけ嬉しそうに呟いた。


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あきゅろす。
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