[携帯モード] [URL送信]

火結(禮晶)完
弐拾
そんな二人を見ながら縹はわざと大声で言った。
「もう、頃合いだろう?…那岐。」
「そうかもしれないな。」
そうして現れた那岐の表情は穏やかなものだった。
何かが吹っ切れた様な、そんな感じである。
「立派に、成長したな…火結(ホムスビ)。」
「……!」
ホムスビというのが火結という名の本来の読み方であり、それを水蛇が桓ノ国の読み方に変えて名付けたのである。
とっさに身構えてしまっていた火結だったが、本当の名前を…遥かな昔に失った筈の名前を…那岐に呼ばれた事で心の奥にしまい込んでいた何かが、彼の中で雪解けの様にすっと溶けて消え失せてしまったらしい。
ぱたり、と上から落ちてきた水滴が下草を濡らした。

「父上……!」

縹は聖に目くばせをすると回れ右をしてその場を離れた。
積もる、いや、積りすぎな話がこれからある筈の父と子の会話を第三者達が邪魔をする訳にはいかない。
縹の後に従いながら聖は聞いてみた。
答えは分かっている事。でも、口に出したかったのだ。
「火結達……もう、大丈夫ですよね。」
聖の言葉に縹は嬉しそうな表情で頷いた。
「あぁ。那岐も火結もやる時はきっちりやる奴だからな」
「………そうでしたね。」

火結はもう、火を鎮める事が出来るのだから。


[*前へ]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!