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火結(禮晶)完
拾捌
季節上、乾燥した草木が多かった為か、山火事は予想以上の速度で燃え広がっていた。
風も強く、最悪な状況である。
「ちっ、水場も遠いな…」
「火を制するのは何も水だけではないぞ。」
何処からともなく現れた縹に火結はとっさに尋ねてみた。
「師匠はいないんですか!?」
水蛇は水の神だ。彼がいれば……
だが、世の中そうは上手く行かないものである。
「すまん、俺のやり残した政務のせいで帰ってしまった」
こんな時に、と忌々しげに呟く火結に縹は言った。
「火結、この炎……お前が鎮めてみせろ。」
「え?」
縹の表情が急に真面目なものになった。
普段の陽気で、飄々とした顔ではなく……数多の神仙達を統べる天帝陛下としての威厳に満ちた顔である。
「火は全てを焼き尽くすばかりではない。毒を制するのが毒であるのと同じで、火を火で制する事も出来る。」
火結の紅い瞳が躊躇うかの様に揺れた。縹は更に言う。
「炎光、劫火、浄めの炎…火という代物は目的を定める事で初めて意味を与えられ、制御が利く様になる。」
「……!」
かつて火を制御する事が出来ず悲劇の発端となった火結。
そんな彼に縹はやや表情を和らげて言った。
「大丈夫だ。お前はあの那岐の息子だ。山火事の一つや二つ、絶対に鎮められる。俺が…天帝が保証してやるぞ。」
聖も頷いた。きっと、彼なら出来る。
「火結なら出来るよ!………多分。」
「其処で多分をつけるなよ。」
次の瞬間、火結の周りの空気が変わった気がした。
「……火結……!」
聖の知らない異国の言葉で何か言っている火結。
縹が面白そうな表情で呟いた。
「彼の故郷の言葉だ。」
不思議な響きを帯びたその言葉に引き寄せられる様にしてこの場所に何かが、目に映る事は決して無いが、確かに存在を感じられるモノ…が集まって来ている気がした。
ざわり、と一陣の風が吹く。
そして………

その後、何があったのか聖はよく覚えていない。
だが、白く靄がかかった様な記憶の中の鮮明な事実として残ったのは、火結が見事に山火事を鎮めたという事だった。


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