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爪切り(くれとー)完
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 女は白木の箱に爪切りと小壜を並べると、正座している足を組みなおした。着物の裾から覗いた女の足は素足だった。すでに霜月の暮れだというのに、どうして好き好んで裸足でいるのだろうか。形の整った指が寒さで赤く染まっている。
――何故、何も履いていないのか。
――履物は、足が束縛されるようで嫌なのです。
――だからといって、素足を地面にそのまま投げ出すのはどうなのか。寒いだろうに。
――心配には及びません。私は寒さを苦痛とは感じていませんから。
 その言葉と裏腹に女がさりげなく着物の裾で足を覆ったのを見て、私は言った。
――それでも寒さは感じているのだろう。履物が嫌ならば、地面に座布団でも置いたらどうか。冷気から足も守れるだろうし、その方が長時間座っているのにも快適だ。
――座布団、ですか。それには思い至りませんでした。
 今度試してみることにいたします、と女は答えたものの、その今度が訪れることがないのを私は知っていた。前にも話の折りで、肩掛けなど、もう少し細々とした物をこの場に持ち込んでもいいのではないかと提案してみたことがあったのだが、その時も同じ答えを返されただけで以来その話に触れられることはなかった。出逢った当時から、女の携えている品物は瑠璃色の小壜と真鍮の小さな爪切り、真新しい白木の箱のみで、一向に増える気配も減る気配もなかったのである。物を増やす必要性を感じていないのかもしれなかった。


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