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「小説」(紺碧の空)
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 しばらくクレーターから離れた方へ逃げると、まだ何も壊されていない町に着いた。人々は混乱していて、実際に何が起こったのかは知らないようだった。家から駆け出して来たり車を突然バックしてぶつけたりしている人がいる中、一人だけおかしな少年がいた。いやに冷静な顔をして、見慣れない服を来ている。しかも、こちらに近づいて来るのだ。
「やあ、キミが灰条君だね」
「何だ、お前」
「僕はキミの事を探しに来た。まあ、言ってみればキミは救世主みたいなものかな?」
その時、僕は突然襟元を引っ掴まれて、首が絞まりそうになった。殺意を持って振り向くと、ヴェクセルがいた。
「悪いが少年、おいとまさせてもらうぞ」
そう言って僕の腕を持つと、ヴェクセルは走り出した。
「お〜い、なんだよぉ……シナリオと違うじゃないか!」
少年の声が遠くで聞こえる。僕はヴェクセルに怒鳴った。
「いきなり何すんだよ! さっきの人が誰だったのかもよくわかんないのに」
「おい、お前ここがなんて言う場所か知っているか」
ヴェクセルは無視して全く関係のない質問をした。ふざけてんのか。
「どういうことだよ」
「だから、ここが何県かって聞いてるんだよ」
「何って……S県だけど」
「Sって何だ。何の頭文字だ」
「SはSだよ。わかんないの?」
「そうか……俺はこの町から少し離れたところまで行ってみたんだ。そしたら、ある標識から向こうの世界が無かった。真っ暗だったんだよ。おそらく、ここも小説の中の世界だ」
僕はその言葉の意味がしばらく分からなかった。何だって? この世界が小説だって? しかし決定的なものを今しがた見てしまった僕は、反論が出来なかった。
「じゃあ、じゃあ、僕の今までの記憶は? 父さんは? 母さんは?」
「全て虚構だ。何もかも作られたもの。オウ、君すらそうだ」
彼に言われると信憑性が高かった。何を隠そう彼も、小説の世界の住人だったからだ。
「俺の教会では、どうすれば小説からもとの世界へ出る事が出来るかという研究が進んでいた。まあ、何が“もと”なのかはわからないが。我々はいくつか方法を見つけた」
「何だ、方法って?」
「一番簡単なのは、話から抜ける事だ。その小説の中で行方不明になったとか忘れられるとか、何でも良い。だが、主人公の場合はそうはいかない」
「……誰が主人公かなんて、わかるのか?」
「多分、お前だ。もう一つの方法は、話を終わらせる事だ。ハッピーエンドでもバッドエンドでも何でも良いから、とにかく終わらせる」
「物語を終わらせるには、どうすればいいんだ」
「まあ定石は、目的を達成することだ。今回の場合は、恐らくあの怪物の撃破」
「そんなこと出来んのかよ……」
「もうひとつ、今一番簡単なのは、主人公が死ぬことだ」
僕は驚愕した。確かに、そうすれば物語は終わる。でもそれって……。
「ヴェクセル、本当の世界に行きたいか」
「ああ。俺はどうしても、本当の……真実の世界を見たい。だがな、それと同じくらい、お前には死んでほしくない」
そう言うと、彼はたくさんのアクセサリーを付けた右手を差し伸べた。
「俺のスカーレット・インフェルノなら、奴を倒せるかもしれん。協力してくれるか」
「勿論」


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あきゅろす。
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