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「小説」(紺碧の空)
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 「これは、自殺ね」
到着するなり、女警部は言った。望杉氏は書斎で首を吊っていたのだ。床には大量の本が散乱している。
「こんなことになるなんて……」
望杉夫人が手で顔を覆っている。富良野君は望杉氏の様子を見て、何やらメモに書き取っていた。
「死亡推定時刻は十四日の午後四時ごろ、死因は窒息死、か」
「あの、あなたたち何ですか? 被害者とはどういう関係なんですか」
警部は当惑した表情で僕らを見た。
「有栖戸警部、死亡推定時刻は十四日の午後四時ごろ、死因は窒息死です」
傍らにいた検死官が富良野君と同じ言葉を繰り返した。
「被害者は望杉 兼夫五十三歳、望杉セメントの社長です」
「ちょっと待って……あの、あなたたち何なんですか? 関係無いなら出て行って下さいますか。出て行って。出て行きなさい。出て行け!」
あまりの剣幕に、僕らは部屋の外に追い出されてしまった。だが、祖倉氏だけはそこに残っていた。
「僕たちは、望杉氏に浮気調査の依頼を受けていた者です」
有栖戸警部は見るからにイライラしている。
「というと、なんですか? あなたたちは、私立探偵か何かですか?」
「ええ、そうです」
「なら、わかって下さるでしょうね。一応、遺族の心のケアというのもありますから、その話は後でお聞きしましょう」
そこへ、勇気を取り戻した富良野君が飛び込んできて、叫んだのである。
「これは、自殺などではない。殺人事件だ!」
静まり返る人々。祖倉氏が呟くのが聞こえた。
「馬鹿者……」
 「あんた、一体何を根拠に……」
有栖戸警部の怒りのボルテージは頂点に達しようとしていた。検死官が何とか警部をなだめようとしたが、無駄だった。
「あれを見なさい! どう見ても、自殺でしょう!」
思いっきり死体を指差している。これっていいんだろうか。
「でも、普通、浮気調査を頼んだ当日に首を吊りますかね?」
「それなら、これを見なさい!」
警部が取り出したのは、望杉氏の手帳だった。開かれたページには、はっきりと“すまなかった、希美”と書いてあった。
「これでいい? わかったら、さっさと出て行きなさい!」
そして、僕らは今度こそ本当に外へ追い出された。
「な〜にやってんの……」
祖倉氏は言った。明らかに失望している。
「だって、あれは自殺なんかじゃないでしょう! もしそうだとしたら不自然すぎる!」
「だから、あそこであんなこと言わなきゃあ、もっと捜査ができたのに」
富良野君は雷に撃たれたようだった。
「あ……その……すみませんでした」
「大体君、望杉さんが誰に殺されたって言うんですか」
「そりゃあ勿論、あの、希美とか何とかいう、奥さんに決まってるでしょう」
「でも、あの時僕らは奥さんを尾行してたんだよね」
「あ、そっか……」


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