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「小説」(紺碧の空)
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 翌日。僕が目を覚ました時、祖倉氏は隣の部屋で電話をしていた。どうやら、本物の客らしい。
「はい。そうです、私が祖倉哲夫です……わかりました、はい」
「祖倉さん! 仕事ですか!?」
富良野青年の声がする。余程暇だったのだろう。
「一体何の事件ですか? 殺人ですか? 誘拐ですか?」
「浮気調査」
富良野青年の声が聞こえなくなった。
 僕らが朝食を御馳走になっている時に、祖倉氏は話を切り出した。富良野青年は死んだ目をしている。
「実は、私たちは今日久しぶりに仕事が入ったんだ。だから、今晩は留守にするよ」
「あの、僕たちも、お手伝いか何か出来ませんか」
タダメシ食わせてもらうのも居心地が悪いというものである。
「そんな事させるわけが」
「じゃあ、お願いしようか」
祖倉氏の一言で、僕たちはその仕事に同行する事になった。
 「なあ、ヴェクセル」
「どうした? 相棒」
「もしかしたら、この世界は推理小説かもしれない。もしもこの事件がただの浮気調査で済まなかったら、その疑いは濃くなる」
「なるほど、それを見極めるためにあんな事を言ったのか。なかなか頭良いじゃん」
僕とヴェクセルは約束の時間を今か今かと待ち続けていた。富良野青年が部屋に引きこもってしまったので皿洗いや掃除・洗濯をしなければならなかったが、すぐに暇になった。推理小説の主人公も、大概暇なんだろうな……。
 夕方。僕らは探偵事務所を後にし、貴音駅(これであてねと読むらしい)から地下鉄に乗った。目的地は金座。とある高級料理店に到着した。フランス料理は久しぶりだな……。
「こんな所に呼び出すなんて、結構金持ちですかね」
予約された席に着いてしばらく待つと、一人の男が姿を現した。
「どうも、お待たせいたしました。祖倉さんですね」
「はい」
「私は望杉兼夫です」
やつれた目をしている中年の男は座りながら言った。彼が依頼人だ。
「えっと、そちらの方々は……」
「ええ、彼は助手の富良野蜻蛉です。で、向こうにいるのが山田太郎君と、マイケル君です」
「職業体験か何かですか」
「そんな感じです……かね」
「それでは、早速依頼内容をお聞かせ下さい」
「その……あの、本当に君たちは一体?」
「大丈夫です。プライバシーは守りますから」
「では……実は、私の妻がどうやら浮気をしているらしいのです。ついては、彼女を尾行してほしい、というのが依頼です」
「なるほど」
「この写真の女性です」
若っ。
「これは、いつ撮られたものですか?」
「先月です」
「どんだけだよ」
「しっ! ヴェクセル……」
「わかりました。日時の方は?」
「今週の日曜日でお願いします。私は、本社の方に用事があるという事になっていますので」
僕らがAコースのメインであるステーキをほおばる前に祖倉氏は約束の場所と時間を決め、別れの挨拶までしてしまった。
「それでは、ありがとうございました。私たちはこれで失礼致します」
「ええっ」
往生際の悪いヴェクセルが、皿ごとステーキを持ち帰ろうとして出口で呼び止められてしまった。


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