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「小説」(紺碧の空)
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 「これはこれは、お客さんですか?」
僕は、自分が机の上に座っていることに気づいた。傍らにはやはり、中世風の男。
「いや、その、すみません」
僕は机から飛び降りながら、周囲を見回した。ごく普通の事務室。これはもしや……。
「やった! ヴェクセル、本当の世界だ!」
「おやおや、一体どうしたんですか」
小太りの男は困惑している。まあ、無理もないだろう。
「祖倉さん、何かあったんですか……って、あなたたちどこから入ってきたんですか!?」
「いやあ、すみません。驚かせてしまって」
机に乗ったままでヴェクセルが言う。ドアから入ってきた男は口をパクパクさせていた。
「富良野君。これは新手の密室トリックだね」
祖倉と呼ばれた男が笑う。ヴェクセル、早く降りろよ。
「そ……そんなことがあるんですか? 今、確かに私は入口のところに……って言うか、あなたたち誰ですか!?」
「お客さんじゃあないらしいねぇ」
「本当にすみません。何でも無いんです……あの、ところでここは何の事務所なんですか?」
「質問することは良いことだ。教えてあげましょう。ここは東町都旧宿区、貴音町の祖倉探偵事務所です」
む、いやな予感がする。
「もしかしてあなたは、幾つもの難事件をいとも簡単に解決してきた名探偵さんだったりしちゃいます?」
「いや、それは無いです」
後ろにいた助手らしき人物が言った。
「あんたが言うんかい」
「だって、祖倉さんと解決した事件といえばまだ逃げ出した猫の捜索ぐらいですよ」
「まあ、確かにそうかも知れないねぇ」
また祖倉氏は笑った。これってセーフ?
「だから、あなたたち誰なんですか」
「よくぞ聞いた。私は東ア」
「いえいえいえいえいえ、彼はイギリスからの交換留学生のマイケルです。僕はただの学生の山田太郎です。ご迷惑をおかけしました。それではこれで」
僕は足早に立ち去ろうとしたが、祖倉氏に引き止められてしまった。
「待ちなさい。まださっきの密室トリックの謎を解いてないじゃあないですか」
 仕方なく、僕らは自分たちが違う世界から来たという話をした。祖倉氏は案外すぐに信じたが、富良野青年はそうはいかなかった。
「あり得ません。質量保存の法則によって、この宇宙に存在する原子の数は一定に保たれています……あなたたちが形成される余裕はないのです」
「でも、富良野君。そうでもなきゃあ、さっきの説明がつかないじゃないか」
「でも、あり得ないものはあり得ないんです」
全く理屈っぽい奴だ。現に僕らはここにいるじゃないか。
「おい、あんた馬鹿かい? 今まさにヴェクセル様はここにいらっしゃるのだ」
「誰が馬鹿だって!? ふざけるんじゃない、僕は東町大学を出てるんだぞ」
「あー、もうその話は止めにしなさい。とりあえず、君たちの話を総合すると、君らには帰る所がないんだね」
そう言われてみれば、そうだ。
「ここにいなさい」
「えぇ!? 祖倉さん、うちにはもうそんな余裕が……」
「そうですよ、ご迷惑をおかけする訳には行きません」
だが、祖倉氏は断固として意思を変えようとしなかった。
「ここにいなさいと言ったら、ここにいなさい」
富良野青年のベッドを犠牲にして、彼の部屋で寝る事になった。


[未来へ#]

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