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「小説」(紺碧の空)
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 ある日曜日の朝のことだった。僕はいつものように二度寝を決め込んでいたが、受験勉強をしなければならないというのも事実だった。軽く寝がえりを打つと、窓からさす強烈な日光が目に入る。もう、たくさんだった。毎日毎日同じ朝が来ては、僕を追い立てる。確かに、何か起こって欲しかったのも事実かもしれない。
 数分後、強烈な衝撃を腹に受けて目が覚めた。あまりの痛みに、呼吸が一瞬止まってしまった程だ。それと、その直後目にした光景にもしばらく呼吸ができなかった。なんと、中世風の服装をした男が自分の腹の上に立っているのである。驚いているのは、相手も同じようだった。
「あっ……ああ、すまない。まさか、こんな所に出るとは思わなかったんだ」
男が困惑気味に言う。僕は、すぐさま矛盾に気づいた。
(なんでこいつ、日本語喋ってるんだ?)
男はベッドから降りると、着ていたマントを翻していかにもそれらしい自己紹介を始めた。
「私は東アルフェミオ聖教会の魔道師、ヴェクセル・エルトラークである。安心し給え、いかに君が不信仰者であっても、魔炎で焼きつくしたりはしない。私はそういう性質ではないからな」
これだけを一気に言い終えると、ヴェクセルは返事を待った。
「は?」
我ながらアホな声を出してしまったと思いながらとっさに立ち上がると、僕は“戦闘体勢”をとった。これはいつか不良にでも絡まれたときに使おうと妄想していた自作の拳法であり、効果は未知数。
「やれやれ、着いて早々手荒な歓迎か」
「手荒な登場をしたのはどっちだ」
僕が凄みを利かせると、相手は馬鹿にしたように笑った。
「何がおかしい。ここは僕の家だぞ」
「フッ……どうやら、本当に違う世界に来たらしいな。この魔道師様に逆らう奴がいるとは!」
そう言うと、魔道師は手を高く振りかざして何やら呪文を唱え始めた。何だ、こいつ、本気か。
「その覇道の炎で全てを焼き尽くすが良い!」
そんな事を奴が言い放つと、魔道師の手に紅蓮色の火球が生成され始めた。どんどん大きくなっていくが、男は何とも思っていないようだ。
「マ……マジかよ!」
「ああそうだ、マジだ。俺様に無礼をした奴は一人残らず焼き尽くしてきた」
どうやら、相当逝っちゃってる奴らしい。手をガソリンにでも浸したのか? ていうか、マジで殺される!
「よせ! もう悪ふざけはやめてくれ」
「悪ふざけだと!? よく言った。そのまま焼け死ね!」
魔道師が振りかぶったその時、炎が火災報知器にかかった。
 「お前、水魔法が使えたのか」
「これはスプリンクラーだ」
二人は天井からふりまかれる水でびしょ濡れになっていた。
「どうすんだよ。親が旅行から帰ってきたらなんて言えば良いんだ」
「非常に申し訳ない。まさか水魔法使いの方とは存じ上げずに、あのような狼藉を……」
「何だ、いきなり」
僕は理解した。おそらく、さっきの攻撃は“水魔法使い”とやらには効果が無いんだろう。
「見たか。ここは僕の家なんだから、どうにかしてくれ」
「はい。ところで、水魔法を使える方がいらっしゃるという事は、ここはまだ現実世界ではないのですか」
「は?」
また間抜けな声を出してしまった。
「私は、ビダクティルス大陸から来ました。大陸の魔道師の間ではこの世界は小説の中のものなのではないかという主張がありまして、そしてついに本当の世界へとつながる魔法陣を完成させたのですが……」
僕はこのビダクティルスと言う名前に聞き覚えがあった。
「君もしかして、ビダクティルス戦記に出てくる人?」
「そうかも」
「本当に!? へえ〜、不思議な事もあるもんだねぇ……勿論、ここは現実世界だよ。正真正銘のね」
魔道師の顔がみるみるうちに明るくなっていった。
「やった! 確かにそうなんですね!」
「うん。後、別に敬語じゃなくていいよ」
「あ、そう」
あっという間に態度を変えると、魔道師は勉強机の上に座った。
「ところであんた、名前は?」
「灰条 凰だ。オウって呼んでも良いけど」
「そうか。オウ、それじゃあお前も俺の事をヴェクセルと呼ぶ事を許そう」
「あんまり調子に乗るなよ。また水魔法を使うぞ」
「すみません」


[未来へ#]

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