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story
夢で見た先
開人は城の中を上から見ていた。部屋には家来と思われる武士が五十人ほど座り、数名の女性、女性の隣には魔導師らしき男性がおり、そして上座に城主がいた。
「そちらに言っておかなければいかんことが出来た」
城主、山波 白鯨<ヤマナミ ハクゲイ>が口を開いた。
「それはどのようなことで…」
五十人の前に並んだ十二人の中の男、雷堂 鬼史<ライドウ キシ>が答えた。
「うむ。実は近頃、この浜鳴の里が何者かの手によって滅んだのだ。そやつは今近くまできておる。そこで、そちらにそやつの処理を任せる。いかなる手を使おうと構わぬ。根から絶やせ」
城主が立ち上がり、手を挙げると十二人はパッと消え、五十人は一気に部屋を出て行った。
「浜鳴、そちはこれでよいのだな?」
「……はい」
浜鳴と呼ばれた魔導士が答えた。

――戦場
「敵の情報を伝わってきている。名は嵐刃 性<ランジン サガ>。浜鳴の師だそうだ。恐ろしい魔力を持ち、多くの魔物を従えて里をいくつも潰したらしい」
馬にまたがった、血数喜 鷹真<チカズキ オウマ>という名の男が言った。
「なぁに、俺たちの敵じゃないさ」
隣を走る水辺 涼兵<ミノベ リョウヘイ>は鼻で笑った。
「それはどうじゃろうのう」
その隣の焔 幸<ホムラ コウ>が手を伸ばすと、後ろを走っていた武士が嵐刃に突っ込んだ。
「いかん!!」
風実 翔弐<フミノ ショウスケ>の声は届かず、武士は透明の壁から放たれる衝撃波に弾かれた。
「近寄れねぇ…」
十二人は馬を止め、衝撃波を抑えて防いだが、五十人の武士は息絶えていた。
「そのようなか弱き者をよこして何になる、太典よ」
嵐刃はニヤッと笑った。
「来るぞ!」
氷牙之尾 心<ヒガノオ シン>が怒鳴り、皆は身構えた。
その瞬間、激しい音と土煙に辺り一面包まれた。
「皆、無事か!」
無良 凛太郎<ムラ リンタロウ>が叫んだ。
土煙が晴れると無良以外の仲間は倒れていた。
「おい…嘘だろ?」
無良は言葉を失った。最後の煙が晴れた先に嵐刃が不敵な笑みを浮かべ、立っていた。
「全てを『無』にする力か。ほとほと恐ろしいな山波の武士よ。その力、我が物にしようぞ」
嵐刃がニヤッと笑い、手を上に挙げると、雷堂、闇戸、光耶、風実、血数喜、空忠が立ち上がった。目には生気を感じられず、完全に嵐刃の人形になっていた。他の五人は完全に息絶えている。
「行け」
嵐刃が手を下ろすと同時に六人から弾丸のような魔力の玉が放たれた。
「…」
しかし、突然現れた浜鳴の造った壁によって弾丸は相殺された。
「ほぅ」
「申し訳ない。皆に相手をさせる奴ではなかった…」
浜鳴は涙を流していた。
「だいす…け…」
空忠が嵐刃の呪縛から逃れた。それほど山波に対する忠誠心が強い証拠だ。
「望人!すまない。今、皆助けるぞ」
太典は地に魔法陣を描き、武器を呼び出した。
「それは…!ぬぅ…一旦、退くぞ!」
嵐刃は武器から放たれる気に押され、逃げようとした。
「これは?」
「奴を倒しうる唯一の武器だ」
無良の問いに浜鳴が答えた。それを聞きいた空忠は武器に手を伸ばした。
「ダメだ!お前らが使ってはいかん」
浜鳴は空忠を止めた。
「何故だ!」
「こいつらは俺の憎悪で出来ているといってもおかしくない。使えば憎悪に食われかねん!」
「構わん!」
空忠は一つ(憐雅)を手に取ってニコリと笑い、嵐刃に斬りかかった。
「逃がしはしねぇ!」
「なに!」
嵐刃は肩から腹にかけて斬り込まれ、怯んだ。
「さよなら…先生」
その隙に浜鳴は魔法陣を嵐刃の足元に召喚し、魂もろとも完全に消し去った。
それと同時に空忠の肉体もボロボロと崩れ始めた。
「やっぱり制御できなかった」
空忠はまた笑い、消えた。
「すまない望人。すまない…。だが、もう少し力になってくれるよな」
浜鳴は最後に残った空忠の魂を結晶に封じた。
「太典…」
無良は残りの五人を指差した。
「殺してくれ」
「我らは殿への忠誠心が足りぬ故に嵐刃の人形となり果てた」
「それは裏切りと同じこと」
「一発で、終らせてくれ」
無良は涙を拭い、
「僕も一緒に逝くよ」
浜鳴が出した武器の一つ(奏)を五人に向かって投げた。
五人は消え去り、無良も消えた。
「すまない、すまない…」
太典は最後まで謝り、その手には十二の結晶が握られていた。

――数日後
浜鳴は本を書き上げ、結晶を本に織り込み、武器も封印した。
すると、本を書き終え浜鳴が顔を上げ、上から一連の出来事を眺めていた開人と目が合った。
「降りて来い」
浜鳴が指を鳴らすと、開人の視界がぶれ、次の瞬間には太典の横にいた。
「よし。聞きたい事が山ほどあるだろう。言ってみろ」
浜鳴は厳しい顔をしていた。
「……多すぎて…突然で…何から聞けばいいかわかんないよ」
「うむ。まず、一番大切な事から話そう」
浜鳴の顔がいっそう怖くなった。
「風実、雷堂、光耶、闇戸、血数喜の姿を見たか?」
開人は頷いた。
「あいつらは殿に永遠の忠誠を誓っていた。だが、嵐刃を目にして忠誠心が揺るいだ。余りの威圧<プレッシャー>のせいでな。五人はそんな自分たちを恥じ、無良によって処理された。だから五人の想いと意向を尊重し、『裏切り者』と本に記した。読んだか?」
開人は首を振った。そんなページがあることすら知らなかった。
「そりゃそうだろうな。書いてから見えなくした。命を捨てた仲間を『裏切り者』として読まれたくないからな。だが、ページは存在する」
「何が言いたい?」
開人にはさっぱり先が見えない。
「好樹、美来、梨乃、孝俊、良佳は裏切り者として桜士の力を失う」
この言葉に開人は衝撃を受けた。
「今までにも…あったこと?」
「いや、これまでの五人は自分の前世が裏切り者でも戦い続けることが出来た。だが、今回は特別だ。神器によって殺された魂は損傷が激しい。だからもう桜士としての魂がもたないんだ」
「そんな…。どうにもならない?」
開人の力ない声に浜鳴は頷いた。
「多少の力は肉体に残るだろうが、風を起こしたり雷を出すことは出来なくなる」
「じゃぁ…光属性に弱い魔物とかが出たら…?梨乃が居なきゃ…」
次から次へと質問が口から飛び出した。
「それ以前に、お前らの属性そのものがなくなるだろうな。桜士は互いの属性の力で力を支え合って来た。一人でも欠けると均衡が崩れてしまう」
開人はただ呆然としていた。たった数ヶ月の間だが、共に戦った仲間だ。失うなど考えられない。
「しょうがないんだよ、開人。
五人はいつ力を失うか分からない。それまで、互いに全力で頑張るんだ。五人に話すかどうかお前に任せる。他の六人に話すのもだ」
開人は黙って頷いた。
それから視界が歪み、目を開けると朝になっていた。


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あきゅろす。
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