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story
ウィーンF
――その夜
夕飯が終わり、皆は席を立ち出した。
「萌、ちょっといい?」
「ん?」
理沙に声を掛けられ、萌美は茶を飲み干してグラスを置いた。
「明日行きたいトコあるんだけど付き合ってくんない?」
「明日?良いよ」
萌美は何だろうと不思議に思った。

――翌日
「じゃ、行ってきまーす」
「ん、気を付けてな」
開人は楽しそうに出かける二人を見送った。
「んー…ん?誰かどっか行ったのか?」
裕生が起きて来た。
「おはよ。理沙と萌が出かけた」
「ふ―ん…」
裕生は頭を掻きながら顔を洗いに行った。

「で、どこ行くの?」
萌美は一応、ウィーンの街の地図を持って来ていた。
「着くまで秘密」
理沙は人差し指を唇に当てた。
それからしばらく歩いた。
「ねー、萌疲れた。タクシーとか無いのぉ?」
萌美は歩き辛そうな靴を履いていた。
「ホントにお嬢ねー。もうすぐよ、ほら」
目の前に何か見えてきた。
二人がやって来たのは数々の有名な音楽家の眠る『中央墓地』だった。
「お墓…?怖い…」
萌美は理沙の背中にくっついた。
「萌、くっつかないで。歩きにくいわ」
それでも萌美は手を離さなかった。
「何が怖いのよ。幽霊より人間の方がよっぽど怖いわ。」
確かに理沙の言う通りである。
「こんなとこに何の用ぉ?」
「ちょっとねー。(ふふ、ちょっと驚かしてやろうかしら…)」
理沙は楽しそうに歩いた。
「萌…何か嫌な気配感じない?」
「ホントに?!止めてよ…」
実際には何もいないが、理沙は萌美に気付かれないよう、指を動かして大気中に波動を起こし、木の葉の揺れる音を出した。
「理沙ぁ?」
萌美は理沙を睨んだ。
「ごめんごめん、ちょっとからかっただけよ」
その時、揺れる木から枝が一本萌美の肩に落ちた。
「!!いや―――――!!!!」
萌美はあまりの驚きに走り出してしまった。
「ちょ、萌待ってー!!」
理沙は急いで後を追った。
何とか追いつき、萌美に近づくと、理沙はそこが自分の目的地であることに気がついた。
萌美はそこにある三つの墓石の前でうずくまっていた。
「萌、ほら立って。ここに来るのが目的だったんだから」
理沙はその墓石の真ん中にあるモーツァルトの墓石を見ながら、萌美の肩に手を置いた。
「もう最低ー。…?感じる…」
萌美がゆっくりと立ち上がると、風が吹き、二人の髪を揺らした。
萌美はモーツァルトの墓石をじっと見ていた。

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