闇への道標 喜ばしき誕生の日 A 「小僧。テメェの名は?」 “ああ、そんな事か” 聞こえてきた問いに、そう言えば、と今更ながら思ってしまった。 「……ヴァル……だ……」 意識が朦朧とする。それでも、彼は答えた。 「そうか」 男は笑っていた。心底、楽しそうに。彼の眼を『燻ぶった炎』と例えていたが、男のそれは、なお深く、熱い炎だった。 「なら、オレの名をくれてやる」 意識が朦朧としていたが、その声だけはやけにはっきり聞こえた。 刺された胸の穴に瘴気が入る――いや、傷口が瘴気を吸い込み、血が巡るはずだった箇所に瘴気が入り、体を満たす。 [*前へ][次へ#] [戻る] |