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SADISTIC EMOTION
†††


 
ビジネスの話だと言いながら、歯切れが悪いのは結城の機嫌を損ねそうな内容なのだろう。

破門されかけているとはいえ、結城はれっきとした暴力団構成員。
背後には結城を金づるにする怖いお兄さんがいる。

可愛いがられている訳ではない。
無いが、結城が機嫌を損ねるとそれを『理由』にされる危険はある。


勿論、触れなば斬らん、という程、結城は短気ではないが、駆け出しの頃にはそれなりに迷惑をかけた連中がいるのも確かだ。


「それは、自分から。」


話を遮ったのは真川だ。
頼み事とは彼の方にあるらしい。
結城が真川に目を向けると、真川がサングラスを外した。


「今度、映画に出ることが決まったんです。」

「それはオメデトウゴザイマス。」

「有難う御座います。それで、その役作りに先生の御力をお借りしたい。」


気のない祝辞に微笑して返す真川は俳優としての威圧を帯びる。
それまでの、どこかに居そうなお兄さんではなく、プロとしての眼差し。


「具体的に?」

「サディスティックな男、の役です。」


詳しくは未公開だから言わないが、つまりは緊縛する場面でもあるのだろう。
結城に教えてくれ、と言っているのだ。


通常、緊縛師というものはその技自体が門外不出だ。
誰でも彼でも出来るようになれば、仕事は減るし、相場が崩れる。
緊縛師にとって緊縛術は、料理人にとっての秘伝ソース、なわけだ。


「ビジネス、ね…」

「勿論、相応額は用意させていただきます。口外はしません。……協力、願えませんか?」


ふむ、と結城は首を傾げ、思案する様子を見せる。

実際、纏まった金は有り難い。
ついでに、芸能界に繋ぎができるのも悪くない。

後は教える相手が気に入れば問題ないが、見た所、真川に不備は見られない。


「……全部教えるのは無理だけど…それで良ければ、構わない。」


結城の返答に、明らかに溝口と金河の二人がほっとしている。


「よろしくお願いします」


酷く真面目に整っていた顔を崩すと輝かせて、真川が頭を下げる。


「こちらこそ。」


良い奴そうじゃん、と結城は真川に笑み掛けた。









その後、具体的にいつ時間を取るのかを決めて―――と、いっても必然的に真川のスケジュールに結城が合わせなければならないが。


真川のスケジュールは『勉強』の為に大まかな都合は付けてあったが、それでも多忙には違いない。

スタジオやロケ先に結城が同行することになる場合もありそうだ。


他の仕事にかなりの影響が出る為、結城に提示された額はなかなか魅力的で。

その分、プロとして手を抜くことは許されない。



第一回目の授業内容をぼんやり考えて、面白いことになった、と結城の口角が引き上げられた。









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