SADISTIC EMOTION ††† 「映画、好評価なんですよ。結城さんの御蔭ですね。」 「まぁ、悪くなかったかな。」 「有難う御座います。それで今度はドラマが入りましたし。」 「……もう教えるのは嫌だぞ。」 「台詞合わせくらい付き合って下さいよ。」 会話しながら、真川は買ってきた食材を調理しはじめる。 真川の料理は旨い。 これも役作りの為に、習った結果らしい。それまで調理器具など触ったこともなかったという。 それにしたって、ドル箱俳優が自分の家で料理しているという現実は、はっきり言えば異様だと結城は思う。 ゴシップとまではいかなくても、緊縛師で暴力団構成員、と縁があるなんてマイナスだろうに、とも思うのだが。 結城の自宅に出入りする真川と、邪険にしながら拒まない結城にはそれぞれ、そうするだけの理由があった。 真川には、あの日、自覚するに到った恋心の成就の為。 何故、教えを請うに結城でなければならなかったかと言えば、その技術に一種の憧憬があったからだろう。 出会い、繋がる縁に、憧れは明確な餓えへと変貌し。 それがどこからくるのか、解った以上、真川は引く気はない。 加えて負けっぱなしで引き下がれないという、雄としての矜持。 一方、結城の方には、身体の都合がある。 精神的にはサディストでも、どれほど相手を征服することに喜びを見出だしていても。 身体は被虐に開花した。 快楽に貪欲な自覚があるだけに厄介だ。 その矛盾をどう扱うか、と考えるなら、知っている真川を利用すべきだと結城は考える。 真川は悪い男ではないが、今のままでは性格、性癖共に、結城を満足させるに程遠い。 (……さぁて…どうやって調教するかな?) 精神の餓えを凌駕させて、自分を組み敷くに値する男にする為に。 箸をかじりながら、楽しみだ、と思う自分に呆れた溜息をつきながらも。 まだ結城は気付いていない。 もっとも強い責め苦だと感じた、切れぬ縄。 彼が自分を呼ぶその声に捕われていると。 END [BACK] [戻る] |