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SADISTIC EMOTION
†††



PROLOGUE


人通りで賑わう雑踏。
様々な店が生まれては消えていく街の、少し外れた古ぼけたビルに、その事務所がある。

といっても、事務所として機能している訳ではなく、ほぼ住居兼倉庫、のような有様だ。

一応、それらしく整えられてはいるが、デスクにパソコンと電話、応接室に給湯室、あとは本棚がいくつかと、ソファーがいくつか。

訪ねてくる者がいないのか、本棚の上には埃が積もっている。
硝子戸の中には被害はなさそうだが。



午前から正午に移ろうとする頃、デスクの上の電話が鳴った。

直ぐに鳴り止みランプが明滅し始め、転送に切り替わる。


と、部屋隅のソファー辺りから派手な着信が響いた。
もそ、と身体を起こして携帯に出ながら、半端に伸ばした色素の薄い前髪を掻き上げる男が、このビルと事務所の持ち主だ。


「…もしもし…?」


一拍置いての語尾をあげる気怠い語りかけに、電話向こうの男の声が早口にまくし立てる。


『よかったぁ、結城先生!捕まってぇ!あのですね、ちょっと緊急でお願いがありましてですねっ』

「…待て…名乗れ。」


がしがしと頭を掻きながら胡散臭げに眉を顰めると、結城と呼ばれた男は欠伸を一つ噛み殺す。


『HKGの青谷ですよ、それでですねっ、実は女優が来れなくなって、以前紹介した奈々香の都合、つきませんかっ!?』

「……………」


一気にまくし立てた相手に返答を返さず結城はちろりとソファーの下を見る。

話し声に目を覚ましたのか、はたまた眠っていなかったのか、女が黒髪を揺らして見上げていた。

人工的に焼いた褐色の肌に肩を覆う黒髪、アーモンド形の大きめな瞳に形良い厚めの唇。

奈々香、とはこの女性である。


「…またか…いい加減にしろよ。これで何回目だ?」


うんざりと結城が答えると、電話相手はまたもや早口で事情を説明し始める。
相槌を打ちながら適当に聞き流している結城の脳には届いていないが。

携帯を耳から僅かに離すと、結城は奈々香を人差し指だけで手招いた。

濡れた瞳で見上げたまま、床に座った女は結城の膝の間ににじり寄る。



奈々香は服を着ていない。
万遍なく焼けた肌を彩るのは白い紐だけだ。
蜘蛛の巣のように奇怪に編み合わされた紐はきつく彼女を拘束する。
所々で中国装飾に見られる房飾りが揺れる。


片手で彼女をあやすように、或いは促すように結城の手の平が頭を撫で。

奈々香は前で縛られた手首を床につくと、結城の股間に顔を伏せた。
ややあって、ジッパーを下ろす音が聞こえ。
寝起きの結城の自身に生温い舌の感触が触れる。


『聞いてますか、先生!』

「聞いてる。煩い。……あのなぁ、俺は嫁になる女を紹介しろ、と言っただろう。他当たれ。」

『そこをなんとか!頼みますよぅー』


悲痛な叫びに嫌気がさし、結城は脚の間から響く水音に耳を傾ける。
指を伸ばして奈々香の横髪を掻き上げながら、熱を持ち始める口腔に高まる射精感を堪えると、戯れに頬を撫で、耳をなぞる。


「約束が違う、だろ?前の報酬代わりだったはずだ」

『はぃぃ、その分と相場料金の二倍!出しますからぁ!お願いしますよぉ…』


「……………ウゼェなぁ、もう!いいよ、わかった。料金振込みの確認が出来次第、そっちに向かわせる。…っとに…ふざけんな。」


渋々ながら承服を示す結城に、息を緩めようとした相手は怒鳴られて逆に息を飲んだ。

ゆっくりと上下動する奈々香の頭に手を置いて、射精を促すきつい吸い上げに心持ち肩を竦めながら、結城は電話口に怒鳴る。


「俺は緊縛師であって、調教師じゃねえ!!」


叩き付けた声と同時に、女がこくり、と喉咽を鳴らして結城の吐き出した体液を嚥下した。










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