SPIRIT OF MASTER ††† ケイが発病したと知って、再び一人ぼっちに戻ってしまったシンは、野原に寝転がって夕日を見ていた。 夕暮れ時、表情のない子供達が家へと帰って行く。 葬列のようだ、とシンは思いながら、見るともなしに見ていたが、その中にかつての友達を見つけて目を逸らした。 「こんばんは。」 「うわっ!?」 目を逸らした先、薄く暗闇になっているところに、見知らぬ少年が立っていた。 いつの間にか。 驚いて声をあげたことを恥ずかしく思いながら、シンは相手を見る。 真っ黒だ。 黒い燕尾服に黒髪。 片目に時代錯誤な片眼鏡(モノクル)、クロスタイの赤と唇が目を牽く。 シャツと肌は白いが、それよりも闇の色をしたマントが目立った。 警戒するシンに少年は笑いかける。 「こんばんは。」 繰り返された挨拶に、シンは答えない。 「ボクが怖い、のかな?」 「………笑うのは魔物だとシスターが言ってた。」 「そう。なら、この街は理想的な神の子の街だね?」 片眼鏡を押し上げるのは癖なのか、青色の瞳が猫のように細められ。 シンは警戒したまま後ずさる。 「…魔物ではない、と言っても信じないのだろうけれど、魔物の名誉の為に口沿えるなら、彼等は決して悪い者ばかりではないよ。」 「…良い、魔物?いるわけない。」 「人間に善し悪しがあるのと、同じさ。もっとも、善し悪しの判断が人間にあるなら、魔物の善し悪しはまた違うけれどね。」 謎掛けのようなやり取りに、シンは痺れをきらす。 或はケイが居てくれたなら、頭の良いケイなら、話し相手にはなれたかもしれないと思いながら。 「アンタ、誰だ?」 「ボクはボクだよ。君は誰だい?」 「魔物に名前は名乗るなって言われてるから、教えない。」 「ボクは魔物ではないのだけど。なんだ、名前が聞きたかったのか。……そうだね、皆はボクを『伯爵』と呼ぶよ。」 シンは怪訝に首を傾げて、びし、っと人差し指を突き付ける。 退け腰ではあるが。 「それは通り名か爵位で、名前じゃないだろう。」 「君が名前を名乗らないのに、何故、ボクだけ名乗る必要があるんだい?君も、通り名だけ名乗ればいいだろう。」 「魔物は名前を名乗らないってっ…」 「シスターが言っていたかい?」 くすくす、とシンには耳障りに『伯爵』が笑う。 もしかしたら、みんなを病気にしたのはこいつかもしれない。 ギリ、と睨み付けて、シンはコイツを逃がさないようにしなければ、と思った。 そうすれば、治る手立てがあるかもしれない。 [BACK][NEXT] [戻る] |