SPIRIT OF MASTER
†††
一人、川辺で佇み、彼の言葉を考える。
今は、迷っていても、いいんだ。
限られたかもしれない時間。
けど、確かにまだ、時間はあるんだ。
私はまだ未来が見えない。
けれど、誰だって、同じこと。
私だけじゃない。
皆、藻掻いてる。
見えないものと戦うのは、時に疲れるけれど。
負けない。
そう、決めた。
さらさらと。
箱の中から砂時計の音が聞こえた気がする。
そして。
私はあれから長い時間を生きた。
時に、迷う友の背を押して。
時に、友に肩を借りて。
過ちも多く犯した。
正しいと信じて、間違いもした。
人と争うこともあった。
笑い合うことも。
常に正しい大人ではなかった。
私はあれから、あの黒衣の伯爵を探しているうちに、宮廷魔法士にまでなった。
けれど彼はどこにもいなかった。
優しい声音はまだ私の鼓膜に残っているのに。
もしも。
もしも彼が、この世界にいないのなら。
どうか誰か届けて欲しい。
あの日、言えなかった『ありがとう』を。
fin
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