SPIRIT OF MASTER
†††
目の高さに持ち上げてみても同じで、動いていないようにみえる。
「止まってる…」
「よく見て。僅かだけど、砂は落ちている」
確かに本当に時々だけど、少しだけ砂を落としてまた止まる。
これが、私?
「これは誰でも持っているものの複製だよ」
「何ですか?」
「心」
こころ?
「正確には心の成長を示す砂時計だよ。君の心は今、低迷してる。けれど、確実に動いている」
「動いてるのは…」
「君の友人達だよ。早い者も、遅い者も、今はちゃんと成長しているようだね」
こうしてみると、皆よりも遅すぎる私は一人おいてきぼりをくらってるみたいだ。
はっきりと目の当たりにするとひどく淋しく心細い。
「君のものを除いて。速度の違いが、解らないかな?彼らもまた、成長するスピードが違うと」
「でも動いてる…」
「今はね。今までと、これからは違うかもしれない」
そう告げると伯爵はすい、と立ち上がった。
辺りはもう真っ暗で、伯爵の居場所を示すのは白い頬と月明かりを弾くアクセサリだけ。
「それぞれが、それぞれの速度で成長は行われる。君はそれが今でないだけだ。彼らもまた、いつか同じ気持ちを知る。それが今でないだけだ」
夜風に優しく届いた声は、次には伯爵の姿ごと、紛れて消えた。
[BACK][NEXT]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!