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SPIRIT OF MASTER
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夜の闇のような深い色のマントとタキシード。漆黒の髪。
白磁の肌に白絹のシャツ、微かに笑みを湛(たた)えた薄紅の唇。
森の緑を思わせる、エメラルドの瞳。右目は片眼鏡(モノクル)で見えない。
川面に残る残照の光を弾く、金色のブローチや上着を飾るアクセサリ。

仕立ての良い出で立ちに、漂う落ち着いた雰囲気、強い力の気配。



ただ者ではない。



私は慌てて服を調え、ひざまずき頭を垂れる。
そうするのが正しいと感じたからだ。

私が問い掛ける前に、彼が言葉を発そうとする気配がして、私は唇を閉ざした。



「君は、それでいいの?」



涼やかな風のようで包み込むような優しい声音。


彼にはきっと、なにもかもお見通しなのだろう。

けれど、私はその答えがわからない。



「…解りません……」



震えそうになる語尾を掻き消えないよう注意しながら、私は素直に答えた。

さわり、と風が揺れる音がする。
彼の気配が揺らめいて、すぐ近くに腰を下ろしたらしい音がした。



「顔、あげて楽にして」

「…でも」

「だって話しにくいでしょう?」



そろ、と顔を上げれば、にっこりと安心する笑顔が向けられる。



「不勉強で申し訳ございません。貴方がどなたなのか、お伺いしても?」

「僕は僕だよ。君が君なように」

「…それではどうお呼びすれば?」

「大概の皆は伯爵と呼ぶかな。他にも色々と」

「伯爵様…」



少年の姿の伯爵様などおられただろうか。ルルーニア地方にはドラゴンの伯爵がいるとか聞いたことはあるけれど。

まだ社会のしきたりには疎いけれど、上流階級にはそれなりに憧れもある。
貴族お抱え魔法士といえば、魔法式をかじった者の憧れエリート職だからだ。
そうそうなれるモノでもないのだが。



私が思い出せないものかと頭を捻っていると、彼がふ、と笑う気配がした。





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