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SPIRIT OF MASTER
†††




「あたしは魔法医療の大学に進学したいんだ。この辺だったらタカラマかなぁ」



と、夕海。



「私は教師になりたいんだ。だからイニラス大学に行こうかと」



と、麗奈。



「そっか、皆決めてんだな。俺は魔科工学大学かな」



と、淳騎。



「お前ららしーな〜…俺は家業継がなきゃ、そろそろバァちゃんヤベーし。薬学資格は取ったから働くようになるな」



これは天将。










…………私、決めてない。










くらり、と教室が春の日差しに揺れた気がした。






家に帰ってからも上の空で。


進路希望、どうしよう。
麗奈が教師になりたいなんて、知らなかった。
淳騎は魔科工学専攻なんだ。
私、魔科工学なんて解らない。


そんなことばかり、ぐるぐると巡って。



自分が何をしたいのかとか、何になりたいのかとか、まったく思いつかない。



成績は悪くない。
飛び抜けて良いわけでもないけど進学するなら幾つかの大学くらいはどうにかなるだろう。

けれど。




もやもやと薄暗い雲が立ち込めるようで。

結局、一睡も出来ないまま、かなり早い時間に眠い目を擦りながら学校へと向かった。




道すがら、明るい日差しと柔らかな緑に励まされ、どうにか気分が持ち直し、足取りも心持ち軽くなった。

春の早朝、僅かにまだ冬の気配が名残る寒さ。
吐き出す息こそ、白くはないけれど薄着にはまだ早い。


煉瓦作りの道を曲がった先、麗奈の後ろ姿を見つけた。



こんなに早く登校なんて、どうしたんだろう。



「れ、」



呼びかけようとした声は、名前を呼べずに立ちすくむ。

麗奈の隣、街路樹の影に見えなかった後ろ姿。



「……淳騎……」



照れたような横顔が、麗奈に笑いかけたのを見て、足は勝手に来た道を引き返していた。











川のせせらぎが耳を擽る。
吹きすぎる風は髪を撫でて行く。
背中は暖かな光に包まれて。

けれど動けずに膝を抱えて、どれくらいの時間が経っただろう。



涙は無い。
胸は痛むけれど。

ただ、動きたくないのだ。
立てない。

なにもかもどうだっていい。



私は…こんな時にまでどうしていいか、解らない。


将来なんて知らない。
恋愛なんて要らない。

だとしたら、何故生きているの。


そんな風に思えて。


そんな風に思う自分を、小さいと嘲笑う自分もいて。



もう、わけがわからない。






辺りが薄暗くなる頃、考えて考えて、考え疲れた私は。


淳騎の事は、明日麗奈に聞いてみよう。
進路はとりあえず大学に行こう。


と、決めた。

ようやくすっきりと纏まった考えに満足して、俯いた顔を少しだけあげると、足元に長い影が伸びて来ている。

誰かが立っているのを感じて、前に視線を向けると、黒衣の少年、が立っていた。







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あきゅろす。
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