SPIRIT OF MASTER ††† 「まったく、少しは待つってことが出来ないのかね、あの子は。」 「仕方ないわよぅ、母親が母親ですもの。」 「それより、聞いた?○○さんってお見合いしたんですって。」 「あらぁ、そうなのぉ…」 「あいつ、何処から来たって?」 「××だってさ。」 「澄ましちゃって、気に入らなーい」 「無視すればいーじゃん、無視。」 カミサマ。 ぼくはどうしたら、みんなとなかよくなれますか? ぼくは、アノコ、じゃないし、アイツ、じゃない。 どうしたら、なまえをよんでくれますか? ぼくを、みてくれるのは、だれですか? 肩を竦めて、丸まるようにして眠るのは、僕の癖だった。 母さんはその癖を『いじましい』という。 父さんの顔は知らない。 僕が生まれた時にはいなかった。 この世界は。 狭い檻に囲まれていて、黙っていてもご飯はあるし、敵はいない楽園。 外からは奇声をあげて人間の子供が覗き込む。 「母さん、なんで人間の子供は僕らを見に来るの?」 「いいから、御飯食べなさい。」 「…はい…」 母さんは必要以上に僕を見ない。 きっと、母さんは忙しいんだ。きっと、そうだ。 だから、僕はいい子にしてなきゃいけない。 母さんを怒らせるのは悪い子だから。 でも。 いつまで? 不揃いな身体の縞を眺めながら、大人しく休んでいたら、同じ年頃の子に話し掛けられた。 僕と母さんは引っ越して来たばかりで、誰も話し掛けてきてくれなかったから、僕は嬉しくて。 ただ凄く嬉しくて。 「お前さ、××動物園に居たってホントか?」 「うん、そうだよ。」 「嘘だろ、あっこ、高い奴しか入れないって聞いたぞ?嘘つきだ。」 「う、嘘じゃないよ、僕、そこで産まれたんだ。」 「嘘だー、嘘つきー。大体、なんだよ、その不細工なシマシマ。縞馬として恥ずかしくねーの?」 「これは生れつき、で…」 「そんなで××に居られるわけないじゃん。…あ、だからここに来たのかー」 あっという間に囲まれて、鼻先でグイグイ押されたり耳に噛み付かれたりする。 僕が何を言っても、その子達は聞いてくれなくて。 次の日から、僕は散々、追い掛け回されることになった。 [NEXT] [戻る] |