Celluloid Summer ††† それから自分の弟を思う。 中学2年生。如月 凪遊音(なゆと)。 凪遊音は将来、就く仕事が決まっている。 周りとの兼ね合いだが、本人も望んでいる処がある。 …凪遊音の…夢はなんだったんだろう? 言葉を選びながら、咲遊音は俯く春日に口を開いた。 「春日ちゃん…ちゃんと、聞いた?」 ふるふると首を振る春日の頭に、咲遊音はぽん、と手を乗せると撫でた。 「夢に随伴するのは、悪いことじゃないよ。俺はそう思う。」 誰かの、それも大切な人なら、その夢を支えたいと思うのは当然で。 「けど、その前に持っていた夢だとか、どっちが大切か、とか、春日ちゃんがもし違う夢を持った時にどうするか、とかは…本人と話さなきゃ。」 顔を上げたかすがに、咲遊音は少しだけ淋しそうに笑った。 「…俺の夢を持っていた人は…死んじゃった。」 言葉にすると、まだ胸の奥が軋む気がする。 鼻の頭がツン、と鋭い痛みをもたらす。 けれど、認めなきゃいけない。進まなきゃいけない。 咲遊音はそう思いながら、愛しい人を思い浮べる。 その隣に、自分の時間を進めてくれた、那智の姿を。 「一緒に叶たかったけど、もういないんだ…だから…今の俺の夢はまだ白紙。」 「…咲遊音ちゃん…」 春日には言うべき言葉が見つからない。 気遣うような視線で咲遊音を見ることしか出来ない。 「ねえ、春日ちゃん…確かに俺は…大切な人の夢を支えたかった。 …でも、その人を亡くしたら、俺は次の夢がまだ見つからないんだ… これは巻き込まれたっていうのかな?…いつの間にか…自分の夢になってたって、言わない?」 目を伏せて、静かに笑う咲遊音に、春日は込み上げるものを隠せなかった。 拭うことも忘れて、ただ涙する。 深い傷であろう、事象を、自分の悩み事の為に教えてくれる咲遊音。 「自分の夢になって、本気で努力するなら、罪悪感を持つのは弟くんに失礼だよ?春日ちゃん。」 そうして、真っすぐに春日を見て、咲遊音はいつも通りの、向日葵のような笑顔を咲かせた。 なんて強い人なんだろう。 春日はその笑顔が替えがたいものに感じる。 鞆親に相談したら、咲遊音に相談してみるのがいいだろう、と言ってくれた。 それは正解だったように思う。 優しくて明るい人だと思っていた咲遊音は、強い人でもあったんだ、と春日は思う。 春日は何度もうん、と頷いて、無理矢理に笑った。 それはいつもの春日スマイルとは違う、十九歳の女の子相応な、ありのままの笑顔だった。 [BACK][NEXT] [戻る] |