Celluloid Summer
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ACT.2
那智と咲遊音が暮らすようになって、一月がすぎた。
始めはすれ違いや勘違いも多く、なかなか巧くはいかないようだったが、咲遊音の根気強さに那智が折れることが多くなった。
「そろそろ慣れたか?咲遊音。」
瑞希の問い掛けに、咲遊音はいつものように笑った。
「大丈夫。瑞希さんだって俺の粘り強さは知ってるでしょ?」
曇りない笑顔で笑う咲遊音には、どうしても向日葵のイメージがついて回るように、瑞希には感じられる。
咲遊音が、最も大切にする花。
咲遊音の首に光る、ゴールドのロケットにちらりと視線を走らせると、気付いた咲遊音はまた、向日葵のように笑った。
那智にとって、咲遊音は騒がしく落ち着きのない第一印象そのままで、確かに最初に提示した『プライバシーには踏み込まない』は守られていたが、『自分のことは自分でやる』の方は、端から破られた。
と言っても、やらないのではなく、那智のことまでやってのけるのだから、那智に文句は言えなかった。
那智が『それは自分でやる』と言わない限りは、料理でも掃除でも洗濯でも、すすんで片付けた。
那智にすることが残っているとすれば、自分の部屋の掃除くらいなものだ。
言ってしまえば、楽だ。
それで何を要求してくる訳ではないし、好きでやっているから、と笑顔を向けられると、那智にしても気は楽だし、不快ではないラインは見極めているようなので、何も言うことがない、と言うべきだろう。
そうこうしているうちに、部屋にいる那智を訪ねてきて、お茶にしよう、だの、食事にしよう、だの、『プライベートを邪魔しない』も破られたが、那智が行かないといつまでも咲遊音は待っているので、最近では呼ばれたら行動することにしている那智だった。
ある夜、那智が夜中に目を覚まして、咽喉の渇きにキッチンへと行く途中、咲遊音の部屋に明かりが付いているのに気付く。
(まだ起きてるのか…?)
首を傾げて咲遊音の部屋を開けると、部屋の主はとっくに眠っているようだ。
ベッドですやすや寝ていた咲遊音は、人の気配に目を開けた。
「…なに…なんかあったの…?」
僅かに体を起こしながら、入り口につっ立っている那智を見る。
「…電気ついてたから…」
起きてるのかと思った、と続けようとした那智は、見る見る赤くなる咲遊音に言葉を途切れさせた。
「…明るくないと寝れないんだ…。」
恥ずかしそうに座り直してカリカリと頬を掻く咲遊音を黙って見ていた那智は、その言葉に笑いだした。
小さかった笑い声は、徐々に弾けるような笑い方に。
珍しい那智の笑顔に、しばらく目を奪われていた咲遊音だったが、はた、と我に返ってベッドから降りると那智に歩み寄った。
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