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Celluloid Summer
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203号室

二階の203号室には、那智が住んでいる。
そして、今日からは咲遊音も一緒に住むことになる。

解散後、那智と共に部屋に入った咲遊音は、こざっぱりとした(悪く言えば物の少ない)部屋に那智の性格の一端を見る。


「部屋、奥の方使って。」


簡単な荷物を持ってきた咲遊音は、早速、奥の部屋を開ける。

未使用のまま、備え付けの家具以外は何もない部屋。


「基本的に、自分のことは自分で。他人のプライバシーには踏み込まない。プライベートは邪魔しない。で、いい?」


自分の部屋に入ろうとしつつ、淡々と告げた那智を、咲遊音が、引き止めた。


「いいけど、二度手間になるから、朝ご飯くらい一緒に食べない?好きなもの、作るよ?」


だが、ちろ、と一瞥すると、那智はそのまま部屋に入っていってしまった。

人とかかわり合いになりたくないという、無言の拒絶は、なるほど、何人もバイトを辞めさせた、と瑞希が言っていただけはある。

おそらく、本人は辞めさせたいわけではなく、マイペースに自己を貫いているだけなのだろうが、人に拒絶されるのは学生バイトにはキツイのかもしれない。


咲遊音は、ふむ、と考えると、持ち前の能天気さで、朝ご飯のメニューを考え始めた。

多分、食べてはくれるだろう、と思ったからだ。


実際、那智は確固とした信念で他人を拒絶しているわけではない。

賄いだって、食べていたわけだし、咲遊音の話に相槌を打つくらいはしていたのだから、人の話を聞かないわけではない。


ただ、煩わしいのだ。

誰かに何かを求めたり、誰かに何かを求められたりするのが。


それをわかっている相手とは、比較的うまくは付き合っている。

つまり、気難しい気紛れ猫を、飼える人間なら、那智とはうまくいくだろう。



そして、ある意味、那智には気の毒だが、咲遊音はそんなタイプの人間だった。




こうして。
二人の共同生活が幕を開けた。





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あきゅろす。
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