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Celluloid Summer
†††





那智には生きていく理由がなかった。
与えてくれたのは、瑞希で、咲遊音だ。

生かされている。

自分の命は、違う誰かに生かされている。

存在理由。

けれど、生きていくのを選ぶのはいつだって自分自身だった。


「重荷になんかしません。重くなんかありません。」


だから。


「紅羽も…見つけたらいいんです。自分を支えてくれる絋羽と、誰か。」


絋羽の為に生まれても、絋羽の為にだけでなく。
違う誰かの手を必要としてもいいんじゃないか。

那智の言葉の意味を、紅羽は暖かく受け取る。

似た苦しみがあるからこそ響くなにか。


「……ありがと…」


目を伏せた紅羽は穏やかに微笑した。







最新のテーマパークを経由して、一週間の旅行が終わる。
7泊8日の8日目。
朝から晩まで遊園地で遊び、夕方遅くに一行は帰途につくことになっている。

平日にかかった遊園地は人も少なく、男の多い団体でもさほど目立たない。

むしろ、紅一点で頑張ってくれている春日への、瑞希なりのご褒美なのかもしれなかった。

はしゃぐ春日に振り回されるメンバーを眺めながら、瑞希は微笑ましく思う。


瑞希が拾い、正社員に迎えているのは、気付けば大なり小なり『訳あり』で。

それを克服していく姿は、何より愛しい。

瑞希にとって、胸を張って誇れる『家族』


家出少年だったタクミ。

姉弟で寄り添って生きてきた春日。

両親と離れて暮らす鞆親。

双子だと思っていたが同一人物だった絋羽と紅羽。

愛情も知らず自殺しようとしていた那智。

恋人を亡くし壊れかけた咲遊音。



彼らが、瑞希にとっての『家族』

いつかは巣立っていくかもしれない。

それでも今はまだ。


彼らの笑顔が、いつまでも消えることがないよう。

瑞希はゆっくりと皆の後ろを歩いて苦笑した。


「…親父臭いなあ…」


一人ごちた瑞希の呟きに、空近だけが聞き取れたのか吹き出した。





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