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Celluloid Summer
†††



夕日の落ちる海を眺めながら、砂浜に立つ人影。

チョコレート色の髪を赤く染めて、紅羽はぼんやりと景色を眺めているように見えた。


「…何かあるんですか?」


那智はその隣に立ち、紅羽の視線を追う。


「…まあね。色々と。」


人に見えない者を見る紅羽には、雄大な景色にも何かを見ているんだろうか。

那智には綺麗な海にしか見えなかったが。


「吹っ切れた?」


那智を振り返り紅羽が尋ねる。


「…いいえ…きっと…無理です。ずっと…」


那智は目を伏せる。
人の命を奪った罪。
一生、忘れない。


「…那智はなんで生きている?」


静かな、紅羽の声。
責めるわけでなく、那智の在り方を問う。


「…傲慢かもしれないけど…咲遊音の為に、生きたい、です。」


それだけで人は生きていける。
那智はそう思う。


「…自分の為に生きろよ、那智。」


那智が顔をあげると、いつも笑っている紅羽の瞳が真剣に那智を見ていた。


「誰かの為。悪くない。悪くないけど、いつか重荷になるかもしれない。」

「それは…相手の…?」

「いいや。」


自分の。
紅羽の言葉は波にかき消された。
けれど、その言葉の意味は那智に伝わる。


「重荷、ですか?」


聞き返した那智に紅羽はそっと笑う。


「俺の存在は、絋羽がいなければ成り立たない。絋羽を守れなくなったら、あるいは守る必要がなくなったら、俺の存在理由がなくなる。」


紅羽が抱える恐怖は、常日頃から付き纏う。
いつか、消えるかも、しれない。
いつか、いらなくなるかも、しれない。


「生まれてきた理由が誰にでもあるなら、人はそれを探すべきじゃない。」


紅羽が海に目を向ける。
沈んでいく夕日が滲むように海に溶けていく。


「理由を無くしたら、生きていけないなら、見つけるべきじゃない。」


わかっていることが、こんなに恐怖をもたらすなら。


「自分の為に生きれるなら、そうすればいいんだよ。那智。」


哀しげな横顔に、那智は紅羽の袖を掴む。


「…俺が、言えた立場じゃないですけど…っ!」


迷いながらも言葉を探して、那智は紅羽に伝えようとする。


「生まれてきた理由と、生きていく…存在する為の理由は、違うと思います。」


たとえ。誰にも望まれずに生まれたのだとしても。
たとえ。一人の為に生まれたのだとしても。


「生きていくのは、自分、だから…。」


誰の為でもなく、那智は『自分の為』に『咲遊音の為』に生きたいと願うのだ。

エゴでも、罪でも。








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あきゅろす。
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