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Celluloid Summer
†††

適度に部屋で時間を潰してから海に出てきた一同は、ホテルのプライベートビーチで思い思いに楽しんだ。

海で泳ぐのは鞆親、紅羽。
砂浜で他の泊まり客の子供と砂遊びに興じる咲遊音。
春日と那智はビーチバレーを楽しんでいる。

眺めながらパラソルの下で談笑しつつ涼をとるのは瑞希、タクミ、空近。


夏特有の気怠い空気ときらめく水面の乱反射に、瞬く間に時間は過ぎていった。




夜。
半年の間にあったことを思い出しながら、那智の寝顔を見ていた咲遊音はふと遠い夏休みに思いを馳せた。

同級生達と撮った映画。
内容はもうおぼろだが、素人なりに工夫して頑張った楽しかった日々。



原点に還ろう、と思った。


映画俳優になりたいと思った夢。

ゆくゆくは監督として、撮ってみたい、と描いた青写真。


「…追ってみても、いいかな?那智…」


あの頃の、夢を。

今度は一人で?


「……淋しい…」


けれど、試してみたい。


ふ、と息を吐くと、咲遊音は顔をあげる。

徨めく光が、その瞳にあった。


夢を追える年齢じゃないとか。

叶うはずがないとか。

そんな理想的な現実は置いておいて。



自分を見つけよう。

自分を試そう。


出来ることから。
強くなりたい。


咲遊音は今日この日を、忘れないように胸に刻んだ。





深い闇の中で思案に暮れるのは咲遊音だけではない。


ベッドに座った鞆親は、携帯電話を見つめていた。

微かに聞こえる、春日の寝息に目をやって、起こさないように寝室を後にする。


広い部屋。
窓から見えるのは暗い海。
遠くに見える町の明かり。


携帯のディスプレイに表示された番号は、一度もかけたことのない人に繋がる。

8年間、会ってない。
声も、聞いてない。

日本に帰ってきても、会うこともない。

どこにいるのかさえ、知らない。


ふ、とため息をつくと、鞆親はコールボタンを押して耳に押しつけた。

呼び出し音が数回。

プツ、と回線の繋がる音。


「………母さん?……元気…?」


異国の空は明るいのだろうか。

今まで連絡をとらなかった両親の、声を聞きたいと思わせてくれたのは。

自分より。
ずっと小さくて、ずっと懸命に生きている、この世で一番大切な女の子。


あの子に、恥じない生き方をしよう。


鞆親の心に決意させた、小さな恋人のいる部屋に、電話の声を懐かしく思いながら視線だけを送り続けた。






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