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Celluloid Summer
†††



ただ黙って春日の話を聞いていた鞆親は、何でもないことのように呟いた。


「じゃ、俺もあと一年はいられるのか。」


春日が弾かれたように振り返る。
鞆親は春日の夢に、協力すると言っているのだ。


「チカちゃ…」

「あ、そういえば、瑞希さんが社員寮の空きテナント、使っていいって。」


春日の瞳がこれ以上無いくらいに見開かれ、鞆親のその広い背中に飛び付いた。

離れなくてすむ。
皆と。鞆親と。
これからも、ずっと。


春日の瞳からいくつかの雫が零れた。





瑞希とタクミの部屋では、タクミが甲斐甲斐しく瑞希の世話を焼いている。

タクミの外見は、到底、真面目そうには見えず、実際は口を開けば毒舌で手厳しい。
だが、幼かった鞆親の母親役をかってでるほど、その実は面倒見がいい。


「とりあえず、水分は取ってから行きましょう。一応、タオルと羽織るもの…救急セット…。」


くるくるとまぁよく動くことだ、と瑞希は苦笑する。

慰安旅行だというのに、タクミはいつもどおりよく働く。
瑞希の分だけでなく、全員分のタオルなどをビニールのバッグに詰めて、ようやくふぅ、と息をついた。

市民プールや共同海水浴場でもないのだから、頼みさえすれば何でも出てくるだろうに、と思いながら、しかし瑞希はタクミを止めない。

窓の外、眩しいまでの海を眺めながら、瑞希はタクミに問い掛けた。


「なあ、タク…俺は凪遊音との約束を果たせたか?」


あの、小さな指切りを。

タクミはふ、と瑞希を見ると、その隣まで歩み寄る。


「…だから、言ったでしょ?貴方が貴方であれば、救われる人間も確かにいるんですよ。」


金色の髪を日の光に透かして、タクミは誇らしげに笑った。







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