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Celluloid Summer
†††



自分達の部屋に戻ってきた那智と咲遊音は、冷えた床にどちらともなく座り込んだ。

何を言えばいいのか、わからなかった。
俯いた那智に、向かい合わせるように座った咲遊音は、少し考えてから突然、頭を下げた。


「気付けなくて、ごめんっ!」


咲遊音の態度に慌てたのは那智だ。


「っなん…何で!?謝らなきゃいけないのは…っ!…ううん、謝っても許されないのは俺の方だ。」


勢いをつけた言葉は、か細く消えるように小さくなった。
ぎゅっと握り締めた手の平に、ぽたりと雫が落ちる。


「…泣かないで…那智。」


咲遊音は指先で那智の目元を拭う。


「俺…非道いよね…?」


涙に滲んだ声が、罪の重さを語る。


好きな人を、奪って。
その人を好きになって。


「幸せになんか、なれないよ…」


あの輝くように生きていた少女。那智に命の大切さを刻んでくれた少女を。

差し置いて幸せになんかなれない。


咲遊音が好きで。

けれど、許されない。
そんなの自分が許せない。


那智は弱く頭を振る。

声を殺して泣く那智から、聞こえないはずの慟哭が聞こえた気がして、咲遊音はそっと腕を伸ばす。

自分より一回り小柄な那智を胸に抱き寄せて、すっぽりと包み込んだ。

心を追い詰めないで。
壊れてしまう。


「罪でも、罰でも。いいから。…傍にいて、那智。」


罪を償えないなら、一緒に背負おう。

罰が欲しいなら、一緒に受けよう。


「だから、置いていかないで?笑ってよ、那智。」


失くしたくない。

それはエゴかもしれない。


「好きなんだ。那智が、好きなんだ。」


その想いが那智を追い詰めても。

矛盾してるエゴだらけの想いは、それでもそれを正しいと咲遊音に認識させる。


「ダメだよ…」

「ダメじゃない」

「非道いよ」

「…答えは?那智…」


そして、今度こそ、那智は嗚咽を洩らした。

激しく泣きながら、それでも捨てきれない望み。

願い。

祈り。


「ごめん…なさ…っ」


しゃくりをあげて途切れさせながら、何度も何度も那智は謝った。

その背を抱き締め、さすりながら、咲遊音はただ何度も頷いた。

溶けるような嗚咽に紛れて、那智はようやく自分の気持ちを吐き出した。


「咲遊音が、好き…」


許されなくても。

罪だとしても。

消えないならどうしたらいい?

那智には想いを止める術はなく。
溺れるように初めて愛した人を離すこともできず。

殺めた命に謝罪しながらも生きることしか選べないと、落ちていく意識に身を委ねた。







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あきゅろす。
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