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Celluloid Summer
†††



ACT.9

長い長い一夜が、明け始めた。
部屋に戻った咲遊音は、留守電で那智が瑞希の部屋に居ることを知り、訪ねた。
そこで、タクミから全てを聞いた。

今、明けはじめた空が白く霞んでいく。

ソファーで眠る那智に、一端、部屋に戻った絋羽が連れてきた鞆親。

朝ご飯の支度をしている瑞希。

朝早くから鞆親を訪ねてきたのだろう春日。

新聞に目を通している空近にシャワーを使っているのはタクミだろう。


那智の近くに座り込んで、瑞希の入れたコーヒーを飲む。

咲遊音には何故か懐かしい気がした。

穏やかな空気も。
朝の光も。


絋羽と紅羽のことには驚きはしたが、咲遊音は三階から降りてきたエレベーターを見ている。

不思議と理解できた。

自分の頬を撫でた風は、やはり奏だったに違いないとすら思えた。

笑っていた、と、言っていた。事実を受け入れて、笑っていたと。

それだけで、胸が詰まる想いがする。


直に床に座り込み、ソファーに腕と顎を預けて、微睡む那智の顔を見る。

寝不足からくる隈。
疲労に泣き濡れた頬。
ここ数日で、折れそうな程痩せた。


許すも、許さないもない。

生きていて、くれた。

絶望にあって、尚。


腕を動かして、那智のさらりとした黒髪を撫でる。


死なないで。

君は。


どれほど苦しもうと思い止まってくれた事が、こんなに嬉しく、愛おしいのに。


離せる訳がない。

君を。


それが那智を苦しめ続ける結果になっても、それでも、尚。

奏を忘れる訳ではない自分に、那智は苦しむかもしれない。

それ以前に、自分の想いは重荷かもしれない。

それでも、尚。


「…傍にいて…」


誰にも聞こえないよう、咲遊音はそっと囁いた。







皆で食卓を囲んで、朝食を採る。
寝不足の目を擦りながら、那智も細々とだが食事を口にした。

瑞希と空近が掛け合い、春日が笑う。

タクミの毒舌に、合いの手を入れる絋羽。

黙々と食事をしているように見えて、鞆親はまだ眠いのか、時々、食べ零しては固まってる。

春日の笑顔につられるように咲遊音も笑った。

全員が知ったと聞いて、変わらない態度に最初は戸惑いがちだった那智も、本来のクールさを取り戻しつつある。


普通で。

あまりにも普通で。


ずっと続けばいい。

咲遊音は祈りながら、零れた涙を皆に見つからないよう拭った。





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あきゅろす。
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