Celluloid Summer
†††
公園で弟に泣き付いて、しばらくして落ち着いた咲遊音は、ベンチに腰掛けて夜空を見ていた。
厚くかかった雲の切れ間に星を探しては、目尻から伝い涙に気付かないフリをする。
時間が遅いのもあって、凪遊音は車で帰した。
振り返り振り返り、車に乗り込む凪遊音に無理矢理笑って安心させ、けれどもまだ部屋に帰る気にもなれず、昔を思い出したりした。
友人達とは無意識にか連絡をとらなくなった。
友人達の方も、どういって慰めれば良いのかわからなかったのだろう、連絡はなかった。
奏の墓参りも一度も行ってない。
「ヒドイ恋人で、ごめんな…奏…」
優しい思い出が輝くばかりで、星の姿は見えない。
幼い頃、公園で遊具に隠れてキスをした。
同級生に揶揄われて、喧嘩になったこともある。
中学で一緒にクラス委員をやって、つい遊びに走る自分を何度もたしなめては、困ったように笑う奏。
友達と8ミリを撮って、はしゃいだ日々。
帰り道でこっそり手を繋ぐのが嬉しかった。
家族のこと、自分の体のこと、将来のこと。
何度も話した。
時には寝る間も惜しんで。
優しい記憶。
震えるため息が咲遊音から漏れる。
見上げた夜空にかかった厚い雲が僅かに切れて。
合間に見えるちかちかした光。
「奏……?」
呼ばれた気がした。
あの、輝く笑顔で。
ふわりと風が頬を撫でる。
『咲遊音はお日様みたいに笑うのね。』
遠い日の彼女の声。
『じゃあ、奏は向日葵でいて?』
遠い日の自分の声。
視界が溶けて崩れる。
『ねえ、笑って?』
二人で同時に言って笑い転げた、遠い日。
『愛してるわ。』
彼女の声が聞こえた気がした。
咲遊音はまるでそこに奏がいるように感じて、彼女の好きだったとびきりの笑顔を浮かべる。
「俺もだよ。」
愛してる。
この世界で初めて自分を求めてくれた人。
この世界で初めて自分が求めてやまなかった人。
彼女の愛してくれた自分でいたい。
生きている限り、前を向いて、心のままに笑える自分でありたい。
嘘も、罪も、弱さも。
自分だと言い切る強さに変えて。
まだ、涙は乾かないかもしれないけれど、辛い時には辛いと、泣くことも強さなら。
「俺は、生きるよ。」
たとえ。
たとえこの世界のどこにも貴女がいないとしても。
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