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Celluloid Summer
†††



ACT.7

暗い部屋。
もう暗闇は怖くない。

ベッドの上で膝を抱えて、膝頭に頬を摺り付けながら那智は思った。

涙なんか出なかった。

ただそのまま何日かが過ぎるのを、ぼんやりと見送った。

苛む罪悪感は、那智から睡眠も食欲も奪った。
動く気力も思考も鈍った。
朝を迎えても、夜を迎えても、那智には出口が見えなかった。

手に残る少女の背の感触だけを見つめて、ただ時が過ぎていく。

不思議と眠さも空腹も感じなかった。


似たような想いをしたことがある。

那智を育ててくれた祖父が亡くなり、しばらくして祖母が亡くなった時。

奏の死が那智にもたらしたのは。
記憶から削除されていたとはいえ、余程、衝撃だったのだろう。
命に対する慈しみだった。

それまでの過去を悔いるかの如く、那智は植物を昆虫を動物を、大切にした。


それでも避けられない死がある、ということがわかったのは、高校にあがってすぐだ。

相次ぐ祖父母の死に、込み上がる後悔があった。

何一つ、孝行出来なかった、と那智は落胆し、将来のことを思うと不安にもなった。


そんな時に高校の同級生達に那智の両親の噂が広まった。

どれ程、自分には関係ないと叫ぼうと、教師達に訴えようと、止むことのないイジメが始まる。


その時の絶望に似ている。

那智は泣くことも笑うこともそこでなくした。
学校にいかない日が何日も続いた。

世界でたった一人。

そんな思いに捉われた。

何も残ってない那智には、選べる道など決まっていたのだ。



のろのろと顔を上げ、数日ぶりにベッドから降りる。
足元がふらつくが、それにも気付かないように那智は部屋を抜け出る。

咲遊音が帰ってないことに安堵すると、彼が管理している鍵束を探して一つ抜き取る。

そのまま玄関を出ると、エレベーターのボタンを押した。



基より生きていること自体に罪悪を感じていた理由。
常に付き纏う自分の存在に対する存在否定。

忘れていたからその感情を否定し続けることが出来たのだ。

今や那智には自分の存在を否定する感情を拒絶することが出来ない。


罪深い子供。


最上階に辿り着いた那智は屋上へと続く階段を昇る。
金属性の扉の前に立ち、鍵を差し込む。
ドアノブを回すと軋んだ音を立てて重い扉が開いた。

吹く夜風は体力の落ちている那智の体を押し戻そうとするように吹き付けたが、刃向かうように端まで歩いた。

眼下に町並みが広がる。

曇り空に星は見えず、街灯と家々の明かりだけがぽつぽつと光っている。







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あきゅろす。
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